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[コメント] 黒い家(1999/日)

欲の物語。なんなら性的なホラー。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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2023年に再鑑賞して評価を下げ、コメント改訂。

森田芳光のキャリアの中で、ホラーというかサスペンスというか、いわゆる「悪」のドラマは数少ないと思うんです。1999年に発表した『39』と本作『黒い家』、続く『模倣犯』の3作品しかない。それもこの時期に連続して。

1998年の『リング』から始まる「Jホラー」ブームの便乗企画とも考えられますがね。「僕、何でも撮れる」と思ってた人だから。でも、得手ではなかったと思うんです。しかし、今なら分かる「時代感」があります。私、森田芳光の時代を捉える感覚や先見の明を信じています。

彼は決して心霊現象や超常現象を題材にしません。全て、恐怖の対象は「人間」です。95年に地下鉄サリン事件、97年に神戸連続児童殺傷事件、98年に和歌山毒物カレー事件が起きる。いつの時代も世間を震撼させる事件はあるものですが、これらの事件は「人間らしい倫理観」が完全に崩壊していた。和歌山の事件なんか、本作同様田舎のおばさんですよ。そんな事件、それまでなかったもん(ちなみに本作の原作は97年刊行で実際の事件より早い)。実際、本作は「常識人」のサラリーマンを主人公にして、「相手は普通の人間の感覚を持っていない」ということを何度も言うのです。おそらく森田芳光の「時代感」は、人間的な倫理観が欠如する暗い時代を嗅ぎ取っていたのでしょう。

「黒い家」って言いながら基調色が黄色だったり、薄汚れた人間心理との対比として清らかな川の水を映したり、人々をなぎ倒す破壊力の象徴なのかボウリングを持ち出したり(原作にはないそうだ)、相変わらず森田君の「俺ってどうよ」感は強いんですが、私はそれよりも、もっと「田舎感」を描くべきだったと思うんです。田舎の閉塞感とか、田舎の屋敷独特の薄気味悪さとか。もっとも、茅ヶ崎生まれ渋谷育ちで80年代にマッチした森田君には無理な話だったかもしれませんけどね。西村雅彦の特異なキャラクターよりも、『冷たい熱帯魚』のでんでんの「こういうオッサン、地方にいる。本当にいる」感の方が怖いもん。

もう一つ言いたいこと。森田芳光映画はたいがい食べるシーンがありますが、本作は麦茶を飲むばかりで食べるシーンがない(と思う)。一方、普段描かないエロシーンがあります。「乳しゃぶれ!」もそうですし、大人の玩具がブーンなんてのも今までやったことがない。そう考えると、主人公の「勃たない」シーンとか、消化器をぶっかけるとか、性的なイメージがつきまといます。つまりこの映画は「食欲」は描かないけど「性欲」は描いている。途中、「そんなの必要ねーだろ」と思うようなエロダンスのシーンもあるしね。そこに何の意図があるのか分かりかねますが、保険金という「欲」を巡る話として捉えているのかもしれません。いや、本能的な何かなのかもしれませんけど。

(2023.08.06 目黒シネマにて再鑑賞)

(評価:★3)

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