コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 自由の幻想(1974/仏)

とことん「神聖」を馬鹿にした映画。よく言えば「ブニュエル節の集大成」。悪く言えば一言さんお断りの「ブニュエル上級者向け」。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「この映画の題名は、カール・マルクスとわたしが共同で作ったものだ」(ルイス・ブニュエル)

何をふざけたことを言ってるんだか。グルーチョならまだしも。あ、これ、言いたかったんだ。ベン・アフレック『アルゴ』の台詞なの。「誰の言葉だ?」「マルクス」「グルーチョか?」

ブニュエル翁の後期作品デジタルリマスター特集上映で、30数年ぶりに再鑑賞。もっとハチャメチャだったように記憶していたんですが、意外とそうでもなかった。ブニュエル作品って、変だけど、珍作ではない。

一筋縄ではいかないブニュエル作品は、表テーマと裏テーマがあるように思うんです。いやまあ、こっちの解釈の仕方なんですけど。例えばこの映画の「ヘンテコ」加減ですら表と裏がある。表面上は、世にも奇妙な短編がずらずら並べられ、ピンと一本通った筋がない(オチすらもハッキリしない)ことがヘンテコに感じると思うんです。でも裏のヘンテコポイントは、エピソードとエピソードのつなぎはやたら丁寧なんですよ。なにそれ?そのくせエピソード中でバサッと大胆な省略をする。

この映画の表テーマは、文字通り「自由なんて幻想だ」ってことなんでしょうし、穿った見方をすれば「価値観は時代で変わるけど、民衆を力で弾圧するのはナポレオンの時代から変わらない」って話にも思えます。でもこの映画、処刑&死んだ美女の棺桶を開ける所から始まって、死んだ妹の墓訪問&デモ弾圧エピソードで終わるんです。要約すると「自由くたばれ」と「屍体愛好」。何が言いたいかというと、ハチャメチャに見えて意外と頭と終わりが合っている。そこに意味があるかどうかは知らないよ。喰えない爺さんだから。で、墓を暴くことに関して「神聖を汚した」という言葉が出てくるんですね。

神聖?

いや、神聖って、どの口が言ってるのさ。この映画の神父とかどうなのよ。そもそも冒頭で兵隊が「聖体」をボリボリ食ってるし。神聖と権威をイコールで考えちゃいけないんだろうけど、この映画は、神父、警察、医者、教師、一方的に家政婦を解雇する雇い主、そして軍隊と、何やら「権威」めいたものが世の中を「汚している」ように見えるし、神聖とか権威とかをとことん茶化して馬鹿にしているように思えます。

「行間を読む」なんてことを言いますが、この映画はどんな解釈も可能で、例えるなら「行間が太すぎる」んですよね。たぶん「解釈しないこと」が正解なんでしょうけど。この人の映画は「教訓のない寓話」だから。でもこの映画のお戯れは、ブニュエルが分かっていれば許せるけど、正直どうなのよ?感も否めないんですよね。よく言えば「ブニュエル節の集大成」。悪く言えば一言さんお断りの「ブニュエル上級者向け」。

(2022.01.22 角川シネマ有楽町にてデジタルリマスター版で再鑑賞)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。