[コメント] シベリア超特急(1996/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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冒頭、断崖絶壁から人が飛び込むシーン。海面にテトラポッドが見えるが、はたして戦時中にあったのだろうか? もしあったとしても、テトラポッドって砂浜や岸壁を波から守るためのもので、断崖の下に置いても意味がないと思うのだけれど…。
冒頭の何気ないシーンから、詰めの甘いこの作品、その後も「あれっ?」と思うようなシーンばかり。(すでに皆さんがいろいろ指摘しているけど)一番の傑作は、爆走中なのにぜんぜん揺れない列車。流れる霧や風の描写でそれなりに疾走感を出しているのに…。
ストーリーそのものは『オリエント急行殺人事件』そっくり。乗客たちが列車に乗り込むシーンなどパクリとしか思えないし(笑)、水野晴郎自ら邦題を付けた『007/危機一発!』(『007/ロシアより愛をこめて』)をパクった…いや、もとい、彷彿とさせる列車内の格闘もある。
また、交換殺人って、真犯人(依頼者)が現場から遠く離れた場所に居てアリバイが成立するからこそ意味があるのに、同じ列車内で交換殺人をしたって、すぐにバレるって! 一方、目をつぶって座っているだけで、超能力者のように謎を解いていく山下閣下にも笑える。話を仔細に聞いていくだけで謎を解いてしまう探偵のことをアームチェア・ディティクティブ(安楽椅子探偵)と言うが、山下閣下の場合、話さえろくに聞かず、居眠りしながら「誰それは何号室にいる」などと次々と言い当ててしまうところが超人的(笑)。
そして事件を解決した後、山下閣下が車窓を見ながら「戦争は絶対にしてはいかん」と能天気につぶやくシーンには、さすがに大爆笑。じゃあ、あんたはなんで軍人になったの? 外交官にでもなれば良かったのに。負けるとわかっている戦争を避けようとする軍人はいるだろうけど、戦時中の軍人が能天気に「戦争反対、平和が一番!」と言わんばかりの思想を持ってるなんて、絶対にあり得ない。加えて、どう見ても帝国軍人らしからぬぶよぶよと太った風貌と棒読み口調…、恐るべし山下閣下(笑)。
でも…、
どんでん返しの後の山下閣下のセリフ「やってることと現実は別か…」がちょっと気になった。
このセリフ、劇中の役者の「やってること(演じていること)と現実」が違うという意味なのだが、考えようによっては、水野晴郎自身、「やってること(映画評論)と現実(映画監督としての実力)」は別だなあ…と自覚して照れ笑いしているようにも取れるのである。結構、何もかもすべて承知の上で、自分の演じたい名探偵、軍人、大人風の人物を演じ切っていたのかも???
それにしても、あれほどの解説者がこんな映画を作ってしまうところに、映画の奥深さがあるのかもしれません。「いや〜、映画って本当に難しいですねぇ〜。」
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