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[コメント] シュレック(2001/米)

”超”おとぎ話ではなく,現代風に飾られた…,やっぱり昔ながらのおとぎ話。
ワトニイ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







漠然とテレビCMを見ていて,「今までのありきたりのおとぎ話を超える作品なのだろう」と勝手に思い込みながら観に行ったが,”主人公がメジャーなキャラクターではない”という点を除けば,見事におとぎ話の文脈に沿った物語だったと思う。その意味では,この作品,”超”おとぎ話でも,”脱”おとぎ話でもなく,伝統的なおとぎ話の新しいバリエーションという気がした。

例えば,主人公シュレックは外見こそ醜く恐ろしいが,実は心優しい”いいヤツ”だという設定だが,これも,昔からのおとぎ話や童話によくあるパターン。ただ,新しいのは,シュレックがやけにクールで醒めた人生観を持っているところで,これはちょっとひねりが利いている。同じく,ドンキーも,明るくひょうきんだけどちょっぴり臆病という一見よくありがちな相棒に見えるが,やっぱり結構冷静な目で自分も他者も見つめている。

一方,CMではずいぶん型破りなヒロインだと期待させたフィオナ姫は,実は化け物だったというオチ以外は,ごくごく普通のお姫様に見えた。格闘技が強くても,ほとんど活躍しなかったし,シュレックに惹かれはじめてからは,よくある恋するお姫様。そして,ファークアード卿。特に強いわけでも,特に悪辣なわけでもなく,個性的な登場人物たちの中で実に存在感が薄かったような気がする。

結局,この作品,たくさんの有名なおとぎ話の主人公たちをチョイ役にして,新しいヒーローとヒロインが活躍するおとぎ話だったということなのかもしれない。

しかし,だからといって,この作品がつまらないか?と言われれば,そんなことはない。登場人物たちも個性的で,テンポもよく,実に面白かったと思う。よく考えると,おかしいところもかなりありそうな設定やストーリーなども,気にならないくらいの気持ちいい映画だったと思う。

−−−−−

ところで,この話,素直に観ると,「見た目でなく,心の美しさこそが大切」と言っているように見える。観る者を元気づける明るく前向きなメッセージを謳っているようでもある。たぶん,それが正しい見方なのだろう。

でも,ちょっと違った皮肉な見方もできるのではないだろうか?

それは,一つは,意外と残酷な話だということ。一昔前に,グリム童話は本当は残酷だったなどという本がベストセラーになったりしたが,この作品にも同じことが言えると思う(その意味でも,この作品がおとぎ話のバリエーションだと思っているわけだが)。例えば,シュレックフィオナがヘビを風船のようにしてふくらましたり,フィオナが小鳥と歌い比べをして小鳥を破裂させてしまったり,ラストではファークアード卿がドラゴンに喰われてしまったり…と,一見無邪気だけど実は残酷なシーンがかなりあったように思う。特に前二者の例は,フィオナが実は化け物だったという伏線の意味もあるのだろうが,「人間見た目ではない」というテーマにはちょっとそぐわないような気もした。

もう一つ,一番皮肉だったのは,「昼間の美しい人間の姿こそ,自分の真の姿」と思い込んでいたフィオナの真の姿が,実は夜の醜い怪物だったということ。だからこそハッピーエンドになったわけだが,ここで一番疑問に思ったのは,今まで自分が人間だとずっと信じてきた彼女が,そんなに簡単に真実を受け入れることができたのだろうか?という点。いくらシュレックのことが好きでも,”化け物のシュレックと結ばれてもいいか?”なんてこと以前に,”自分が人間ではなかったという事実”を,そんなに早く受け入れ,気持ちの切り替えができたとはとても思えないのだが…。皮肉っぽくとれば,ラストの結婚式の場でシュレックを選ぶフィオナは,心の奥底では「自分は人間だけど,相手が化け物でもいい」という心境になっていなかっただろうか? 結局,ご都合主義的にフィオナもシュレックと同類だったということでハッピーエンドになってしまうが,ここは,ちょっとごまかしているようで,何となく引っかかっている。

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まあ,何だかんだ言っても面白かったことには違いないし,観終わった後は,上であれこれ書いたようなことはさて置き,スカッと爽やかな後味だったことは確か。素直に楽しめる作品だと思う。

それと,洋画は基本的に字幕で観る主義なのだが,この作品は吹き替え版で観た。山寺宏一をはじめ主な登場人物の吹き替え陣はなかなか熱演していて,十分楽しめたと思う。

(評価:★4)

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