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[コメント] ゼロ・ダーク・サーティ(2012/米)

ありがちな祖国礼賛英雄譚になっているかと思ったら比較的抑制の利いた淡々とした描写だった。見ていて気持ちよい話ではないが、一人の女性の仕事への執念が、世界的な影響を持つ出来事に繋がったスパイ・ドラマとしては緊張感があり面白い。
Walden

ビン・ラディンの居場所を突き止めたCIA職員のお話。タイトルは「深夜0:30」の米軍風の言い方だそうで、作戦の決行時間。

ありがちな祖国礼賛英雄譚になっているかと思ったら比較的抑制の利いた淡々とした描写だった。見ていて気持ちよい話ではないが、一人の女性の仕事への執念が、世界的な影響を持つ出来事に繋がったスパイ・ドラマとしては緊張感があり面白い。

有名なのに詳細が知られていない出来事の映画上の再現という面が強く、その意味では、製作陣の取材力や再現力には感服させられるとこが多い。きっかけになったのが20代の女性というまずその事実がすごい。

よく出来ていることの証左でもあるのだが、冒頭から拷問のシーンであり、しかもこれが事実に基づくという触れ込みの映画であるため、観ている方としてはかなり複雑である。こうした「果たしてこれに大義はあるのか」というある種の疑念から来る不快感は映画の間ずーっとつきまとう。

しかし、主人公マヤの執念と、実際に起きたテロの話もあり、少なくともビン・ラディンその人を追い詰めることの大義には納得しながら見ることになる。

共感できるのは、主人公マヤの執念。

上司に楯突いてでも、不確実な状況下で自分が正しいと思う物事を通す姿勢というのは、文脈を超えて共感できるものがある。それも、9.11から数えれば10年に渡る戦いである。この辺の描写は、フィクションの物語ほどドラマチックではないので、ドラマを見慣れた人間の目にはやや物足りなく映るだろうが、しかし、変な脚色を抑えているという意味ではむしろ好感が持てる。

不確実な手がかりを元に、周囲が反対する中、異国の地で時に自分や仲間の命の危険にさらされながら仕事をするってどういう感じなのだろうと思いながら見た。

終盤、オサマ・ビン・ラディンをネイビー・シールズが殺害する作戦のシーンも、淡々とした描写が続く。比較的尺が長く使われており、その間に、観客は恐らく色々な思いを抱く筈だ。本当に彼がいるのか不確実な状況下での作戦。非情なシーンもある。再び、果たして「ここに正義はあるのか」という気持ちがもたげる。卑劣なテロの首謀者に同情の余地はない。しかし、これの目的は一体なんであったのだろうと。

それが製作陣の意図であったかどうかはともかく、良くも悪くも、「テロとの戦い」というものの一側面を丹念に描写することで、そのことの意味を考えさせてくれる映画であった。

2013年2月17日(日) TOHOシネマズ 上大岡

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ガリガリ博士[*]

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