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[コメント] マスカレード・ホテル(2018/日)

ホテルのサービスを、劇中劇のように描く演出が見事。キムタクのカッコ良さをより輝かせたのは彼自身のカッコ悪い演技だと思うが、それを引き出したのは演出の成功だろう。
のぶれば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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華やかなホテルのロビーや客室と、簡素なスタッフルームや厨房。これが劇中劇のような演出に一役買っている。そして「お客様」を前にしたサービスと、「不審者・犯人」を追う捜査との対比。それはそのまま、フロントマンと捜査員の二つを演じ分けることと同時に、二つを融合していく演技に繋がり、輝きもより放つこととなったのだろう。

キムタクのカッコ良い恰好悪さとカッコ悪い格好良さを観れたのは、この映画の収穫の一つ。渋々フロントマンを引き受け、制服を着た時の悪びれた感のある格好悪さは、ホテルで潜入捜査をする捜査員としても格好悪く映る。それが、見た目に格好良いホテルマンになった時には、まだ捜査を優先する挙動の可笑しさが恰好悪い。そして、ホテルマンらしさを纏い始めた頃には、ホテルマンとして格好良く見える一方で、捜査員としても恰好良く見えてくるのである。さらに、犯人を捜しつつもその途中でも客に律儀にお辞儀する恰好良いホテルマンになった頃には、一人前のホテルマンを装う捜査員としての恰好良さに見えてくる。

この映画の宣伝をかねて、テレビ番組「鉄腕ダッシュ」に登場した時、取材の際にポケットに手を入れていたのが失礼と、一部で批判があった。映画の中でもポケットに手を入れて話をする場面があったが、それが恰好悪く見えた。で、もしかしたら、恰好悪く見えたのではなく、敢えてこの映画のために恰好悪いキムタクを見せていたのではないかー。そんな風に思えるほど、恰好悪さも光っていた気がする。

これまで、キムタクの演技では、『武士の一分』で復讐の理由を尋ねられ、本心を抑えに抑えても、それでもわずかに本音が漏れてしまう演技が一番好きであったのだが、ホテルマンの制服をしぶしぶ着て悪びれる演技も、それに劣らず良かったと思う。キムタクの演技にまた幅広さ加わったようで、お得感があった。やはり感情を抑える演技に彼の真価があると思う。

さて、共演の長澤まさみは、確固たるホテルマンとして登場し、一挙手一投足を丁寧に撮影したことで、その有能さを際立たせた。それは、キムタクが長澤に従わざるを得ない、あるいは、渋々了承していくしかないことも観客に説得力を持たせた。また、ホテルマンの仕事内容を観客にリアルに伝える効果もあり、結果、観客には、長澤とキムタクが同等のプロであると映ることに成功している。これも、この映画を成功させた要因だろう。

ただ、最終的に、ケヴィン・コスナーと ホイットニー・ヒューストンの『ボディガード』のような、男が守り女が守られる形になってしまったのは、少し惜しい気はする。個人的には、ラストは男と女であることを見せつつも、やはり、捜査員vsホテルマンで〆て欲しかったな。

ところで、気になったことが一つ。映画では「お客様は仮面をかぶってホテルに来る」と言われていたが、「仮面を脱いでホテルに来る」お客様も結構いるのではないだろうか、とそんな感想を持ったので候。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぱーこ[*]

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