[コメント] 1917 命をかけた伝令(2019/英=米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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予告編の塹壕を進むシーンを観た時から、頭にはキューブリックの『突撃』が浮かんでいた。それも、強烈に。『突撃』を超える作品なのか?という興味を否応なく持たされた。この類の期待は往々にして裏切られるのが常だが、それを覚悟してでも観てみようと思ったのも事実だ。全編ワンカット風にも興味があった。
鑑賞した結果、キューブリックの時代にこの技術があったら、『突撃』はどんな作品になったのだろう?と思いを馳せた。もちろん、キューブリックが全編ワンカット風の演出を取り入れるかどうかは不明だし、取り入れなかったろうとも思う。
それでも、そう思わせた『1917』は、世間一般に言われているより、評価されていいのではないかと思うのだ。減点ではなく加点評価として。
<全編ワンカット風演出>
それにしても、冒頭のどかな花畑の後に、最前線まで進んで行くシーンはワンカット風演出の成功例だろう。進むほどに、周囲の兵士の緊張や疲労が濃くなっていくのがこちらにリアルに伝わってくる感じがあった。美しい風景から凄惨さへ歩くテンポでのグラデーションは見事。
一方で、夜中から、明け方、川を下るまでの流れは、時間的な違和感もあり、どこか騙されている感が生じてしまった。はっきりとした場面転換は観客がイメージを切り替える間としても必要なのではないだろうか。
<パクリとリスペクト>
不意にスピルバーグの『プライベート・ライアン』を思い出させるシーンも幾つかあった。それも減点対象としては考えない。それを言い出したら、ほとんどの映画が評価できなくなるように思うからだ。大事なのは、「パクリがどうか」でも「リスペクトの有無」でもなく、それが作品に効果的に作用しているかどうかのはず。その点で言えば、効果的であったと思うが、元の作品を超える程のものでも無いように感じた。
<映画鑑賞の邪魔になるもの>
言及しておきたい点を先に述べたが、作品として印象に残る部分も多かった。 映像としてのリアルさは群を抜いており、戦死した兵や馬の死体、ハエ、カラス等の様子や、注意喚起の文字、有刺鉄線、爆発後の窪地、臭いそうな水、放棄された武器、照明弾に照らし出される様子、飲料水や牛乳の貴重さ、細かな演出や描写を一つ一つ書けばきりがない。
しかし、それ故に冷静に観ている自分にも気づいてしまうのである。不意にストーリーから離れ、先にあれこれ批評を考えてしまうこともある。そして、作品にのめり込んで楽しめていない気がしてしまう。それは作品が魅力に乏しいってこととは別だろうとも思う。もしかすれば、私の年齢のせいかも知れない…。 そんなもやもやした感情が、鑑賞の邪魔をしてくる。
思春期や青春時代であれば、邪魔されることなくこの作品に★5をつけたかも知れない。 他の作品をあれこれ観ているがゆえに、いつのまにか映画に浸れなくなっているのかも知れない。今後、すんなり★5をつけられる映画に出会えるのだろうか、そんな気もしてしまう。そんな感じの、もやもや★4なので候。
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