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[コメント] 突入せよ! 「あさま山荘」事件(2002/日)

突入する側の視点からだけで撮るのは有りだと思う。それでも本作品で何を描こうとしたのかは曖昧で、作品全体が役所広司の好演に救われている感が大きい。
のぶれば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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一枚岩でなかった警察を動かし、何とか人質を救い出せたという流れはわかる。そして、原作者でもあり、主人公でもある佐々の思いもそれなりに理解はできたものの、どうにも残念さが残ってしまった。

佐々を悩ませた長野県警や警視庁の面々のコミカルさが目立ち過ぎて、逆にアンバランスになっていないか。実際にそうであったとしても、彼らには警察として一片の誇りもないのかと呆れてしまうような演出の連続には、興醒めしてしまった。佐々一人の孤軍奮闘ぶりばかり見せつけられている気がして、作品への好感度が維持できなくなってしまったのだ。

警察側からだけの視点で描くのは有りだと思う。事件の最中に赤軍の細かな動向や考えがわかるわけもないし、事件全体を俯瞰的にみないといけない訳でもないだろう。それでも、警察として犯人がどういう人間であるかの分析はしたであろうし、その上での突入計画だったろうと思う。そこには犯人像のイメージの違いからくる論戦もあったのではないだろうか。そういう犯人や事件に迫る材料に乏しいのには大きな不満が残った。

黒沢作品の『天国と地獄』ほどの緻密な分析まで要求はしないが、少なくとも、計画を進めるに足る説得力が欲しかった。警察側の動きも俯瞰的に見るばかりで、佐々以外の思いがあまり見えなかったのが残念だ。仲間の殉死を悔しがることはあっても、それは誰が死んだかを見せているだけで、なぜそこまで悔しがっているのかが観客にはわからず、共感できない。隊長と中隊長がやられたと口論する場面でさえ、意地を張っているだけにしか見えず、観客は傍観者になるしかない。

一方で、肝心の救出すべき人質への配慮もあまり見えない。鉄球も水攻めもその先にいるだろう人質のことを考えることなく、口論や銃の音、爆発音をBGMにして、淡々と事の成り行きを見せられるだけだ。

ただ、救いは佐々を演じる役所広司だ。映画は彼をヒーローにするがごとく周囲の者に失態を続けさせるが、佐々自身の柔軟な対応のおかげでコミカルに受け止めることがきた。それも作品の狙いだった可能性はあるが、彼でなければ観客にイライラが溜まっていったように思う。 特に、寒さで凍った靴ひもを溶かすために湯をかけるシーンが幾度かあるが、彼の硬軟演じる幅の広さが印象に残った。この作品の一番の収穫とも言えそうだ。彼の演技が光っていたがゆえに、評価の☆を2から3にしたと思ってもらっていい。

金融腐蝕列島』や『クライマーズ・ハイ』のような説得力ある熱い思いがある故の駆引きや論争がもっと見たかっただけに残念なので候。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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