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[コメント] 凶気の桜(2002/日)

キレてる窪塚、新人監督、キングギドラの笑っちゃう音楽などに隠されてるが、 プロデューサーと脚本が東映の松田優作映画を放ってたコンビだとわかり、なるほどね、と思うような映画。(04.02.22)
しど

この作品、主演の窪塚、音楽のキングギドラ、世相に合った右翼、 なんてキーワードが散りばめられてるから、毎度のぺらっぺら映画かと思いきや、 脚本としての構成、映画としての作りがきちんとしていて、予想外に面白かった。 そして、ふと気づくと、題材とテーマは、かつてのカルト映画、 石井聰亙の『狂い咲きサンダーロード』とほぼ同じだったりする。 居場所を失ったチンピラが、暴走族として独立特攻隊を形成するか、 社会を呪いながら「ナショナリスト」を自称して街の浄化に励むか、 出発点は異なるが、右翼の皮をかぶって甘い声をかける大人の存在に、 「ガキのツッパリ」が水で薄められ、結束していた仲間に亀裂が入る過程、 挙げ句の主人公の暴走。 ストーリー展開や描写自体も、「狂い咲き〜」に共通するモノが散見される。 が、それが「パクリ」の領域ではなく、「オマージュ」にまで昇華されている所が、 この作品の面白さだろうか。

窪塚演じる主人公は、友達二人と白い特攻服(裏地は赤)を身に纏い、 夜な夜な渋谷のチンピラを叩きのめしている。 名を馳せて来た頃、右翼団体を看板にするヤクザが彼らに声をかけてくる。 「車をやる」。 どこにも属さないことを信条にしていた彼らだが、ついほだされて貰ってしまう。 そして、徐々にヤクザに懐柔され、大人の描くシナリオに踊らされていく。

序盤から連続する映像とエピソードは、非常に漫画チックな描写で、 鼻で笑いならが見てしまうのだが、その戯画的な描写自体が、 最終的には「戯画的な結末」として、感動すら導いてしまうところも凄い。

窪塚主演で最近の若者像の注目作品といえば、『GO』を連想するが、 そっちの糞加減との対比は、やはり脚本の構成力と監督の力量の差だろうか。 『GO』は表面的に軽さを散りばめながら重い在日というテーマを描こうとしつつ、 軽いだけで何をやりたいのかさっぱりわからない、表層的な映画になってしまったが、 こちらは逆に、右翼という重いテーマをファッション的に装いながら、 その実、永遠に不滅の「行き場の無い若者」という裏テーマをきちんと浮かび上がらせている。 まあ、それが当初から狙っていたモノなのかどうかは、宣伝広告を見る限りで伺えないのが、 両方の作品に共通する「宣伝の逆効果」かもしれない(笑)。 ただ、『GO』の脚本家には若手の宮藤官九郎を採用しているが、 こっちはベテランの丸山昇一を持ってきた所に、少し「本気度」が感じられる。 (なんと製作の黒沢満とのコンビは、松田優作の映画シリーズを生んでいた!)

アメリカにかぶれた街で、日本的な「何か」を求め焦っている主人公は、 「残ってるの桜だけじゃねーかよ」と叫び、 彼に恋心を寄せる女の子は、「私、日本っていう国は好き。でも最近の日本人は嫌い」と呟く。 こうした「なんだかなー」と思わせるセリフが、 つい「うんうん、わかるわかる」なんて思わせてしまうよう、 きちんと説明的な過程が盛り込まれてるところが、この作品の丁寧さだろう。

狂い咲きサンダーロード』は荒さばかりが目立つ、 まさに、「狂い咲いた」ような魅力の作品であったが、 「凶気の桜」の花びらが舞う中で凶器としての狂気が起こるこの作品は、 80年代の「散った花」とは異なり、美しさを顧みる余裕として丁寧さをも兼ね備えている。 それが20年の月日を経た時代の差かもしれない。 余談だが、両方とも配給が東映系なのも、案外、そうした二作品の共通点をさらに喚起させてしまう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ロープブレーク[*]

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