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[コメント] 紅の豚(1992/日)

友達曰く、「なんでブタなの?」。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ブタがブタなのは、宮崎駿の韜晦を含めた自己投影に決まっている。それはこの物語の約束事。その為の映画なんだから、それはそれでよい。(「なんでブタなの?」と言われた時には、「なんでそんなことが気になるの?」と逆に驚いた。*1)もとは模型雑誌の趣味的な連載(*2)であったものが、航空機中で上映される(脳みそ酸欠状態のサラリーマン諸氏向けの*3)中編映画の企画となり、それが劇場長編になったのだから、趣味的な映画になるのは始めから判り切っていた。そんな目で眺めればこの映画の出来は頗る好い。アニメーションに過ぎないのに、訪れたこともないアドリア海の眩しい陽光と夕暮れ時の物憂さを感じ、雲の上に天国とも地獄ともしれない幻想的な光景を見出し、仕上げにはディテールの生かされた空戦まで楽しむことが出来る。映画としては趣味的な豊かさの充ちた佳作。(監督の好きなサン=テグジュペリの世界)。

しかし、その上で難を言うならば、あまりに趣味的過ぎて映画自体を小さくしてしまっている感があることも否めない。宮崎氏自身、「つくってはいけないモラトリアム映画だった」とこぼしていたそうだが、確かにブタがブタであることが地上の現実と衝突してせめぎあう(ファシズムとの争いやかつての因縁の女との葛藤)というドラマがしっかりと見据えられず添えもの的に描出されるだけなので、大人のカッコよさの見得を切ろうとするドラマとしてはかなり甘ったるいようにも見えてしまう。(地上の大人=人間の事情に背を向けて気取ってみても、それは気取っているだけとも言えてしまう。)

1)うちの親父は「ポルコ・ロッソ」という名前に政治的なメッセージを読み取って、この映画を「反戦映画」と評していた。もしそうとしか思えないのだとしたら、それはちょっと不幸な映画の見方ではないかと思う。日本の戦中の漫画の世界では「日本人=犬・中国人=豚」という図式があったそうだから、その踏襲でもあるのかもしれない。中国人=アカ(紅)。宮崎氏のイメージの世界はメイン&サブカルチャーからの多様な引用で成立している。

2)原作マンガの「飛行艇時代」では、ブタが最初に救出するのは紛れもない妙齢の美少女。銃撃を受けて「美少女は世界の宝だぞー!」と叫ぶマンマユート団、隙を見て自力で脱出する美少女に「イェーイ!ヒロインはこうでなくっちゃ!」と浮かれるブタ。映画はあれでも自主規制(^^;。

3)とは言っても、企画書には「肉欲は余計だ」なんてひとこと(予防線)がしっかり書き添えてあったりする。

(評価:★3)

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