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[コメント] ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(2009/日)

人類補完計画の罠。〔3.5〕

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ひとまず面白かった。1時間40数分の尺にこのスケールの物語を語り収めているのは十分賞賛に値すると思う。その充実ぶりは素晴らしい。『』と違い、旧作と軌道を異にしながら、そのじつ本質的には旧作のストーリーラインを辿り直している。それでも確かに軌道を異にすることで、見える風景は違ってきている。登場人物は殻にこもっていくことから脱皮しようとし、自分なりに他者との関係性の中に生きようとする。それを作者である庵野の個人的履歴を参照することによって説明することは容易だが、しかしそれは、観客が見たかった物語でもあると思う。一言で言うならば、「前向き」になった。

だが、その「前向き」な展開は、作劇上の予定調和の罠を抱えてもいるのも事実ではある。旧作は恐らく、作者がそんな作劇上の予定調和の罠を感じて、その閉塞感から懸命に脱出しようと苦闘した結果の創作であったはずだ。このことは劇中では、シンジとレイの邂逅が契機となって発動するらしい、人類補完計画の罠として作劇化されている。物語が予定調和に突き進むことは、物語の閉塞に突き進むことに他ならないのだ。劇中の登場人物達が「前向き」になったのはいいことかもしれないが、それが物語の閉塞として自覚されたはずのかつて夢見られた予定調和へ向かってこのまま突き進むとすれば、それは後退であると言わざるを得ないと思う。

だが恐らくはそうはならないだろう。大人達の陰謀である人類補完計画(予定調和)の罠に、みすみす子供達が嵌り込むことを、今更ただそのまま受け容れることなど作者にも観客にも出来まい。だがではどうなるのか。物語を語ることを捨てずに、そして敢えて「前向き」に物語の予定調和を打破すること。その点こそが、次作以降のお楽しみ、ではあるのかもしれない。しかしまあその前に、クライマックスのインフレみたいだった今回の終盤の展開を今後どううまく地に足つけさせて纏めるのか、その点もお楽しみではあるが。

ところでちなみに、ベタな(“ベタ”ってところが泣かせる・笑)昭和歌謡のオンパレードとか、「今日の日はさようなら」とか「翼をください」とか、そこで出すか!的なセンスは余りに通俗的でださい。でもその通俗性って、オタク文化の粋でもあるような気もする。ミサトさんも毎回言っているようにそれがオタク風の「サービス、サービスぅ!」ってもんなのかも知れない。嫌いじゃないよ。

(評価:★3)

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