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[コメント] 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん(2010/日)

「浮く」…ということは、この映画の主題なんだと言ってもいいんだろう(恐らくは)。言葉が、体が、心が、あるいは“物語り”そのものが宙に「浮く」。その浮遊感から着地して、歩いていけるその為には、「君」が〈!〉必要。たとえそれもまた「嘘」に過ぎなくても、何度でも、何度でも。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







正直に言うと、自分はそこに、一片の「本当」を感じてしまったと言わざるを得ない。はじめこそ、こんなハナシは結局は凡百のエロ(同人誌)マンガ的な想像力にほとんど同じ、つまりは想像力に課せられるべき倫理的な抑圧を覚悟もなく度外視して(箍をはずして)、それでいてステレオタイプな記号の集積でしかない、そういう茶番の如き妄想の産物でしかないのじゃないか、と思ってしまっていたのだし、実際浮ついたセリフのやりとりを繰り返す主演のふたりに辟易した感覚を抱いてもいたのだけれども、まーくんこと染谷将太が一度目の投身を図る場面あたりで、ふと、この浮つきはあるいは自覚的なもので、むしろこの浮つきこそ主題ですらあるのではないかしらと、言語的にというよりは感覚的に思わされてしまったのだった。(その浮つき加減から、ふと『20世紀ノスタルジア』なんて映画まで思い出してしまった。)

で、そのあたりからなんとなく、映画に於ける身体のことを考えるようになり、つまりは映画に於ける身体とは、具体的な細部であって、具体的な細部とはつまり現実であって、この映画は、浮ついた言語であり、身体であり、そして「こころ」が、如何にして具体的な細部としての身体という現実に着地していくのかを模索する物語なのか、などと一人合点して観るようになってしまった。たとえばまーくんが何度も繰り返す「嘘だけど」の一言が鈴木京香演じる女医に不意に遮られたり、あるいはみーちゃんこと大政絢が過去の写真を目にして突如涙を零してしまう描写などを見るにつけ、彼や彼女はこうして、少しずつ身体を、そして「こころ」を、具体的な細部として回復していくのだろうか、などと思ってしまったのだった。

が、その一人合点は結局一人合点でしかなかったということが、その後の物語の展開を追うと判然としてくる。正直に言って、どのストーリーラインが本当に本当の(?)ストーリーなのか、つまりオブジェクトレベルなのかが判然としないということが判然としてくる。そして最後は、浮ついたままのまーくんの身体が、具体的な細部としての身体ではなく、謂わば物語上の観念的な記号として、地表に降り立つようなイメージに収束する。それはしかしイメージでしかなく、決して具体的な細部を介して地に足着けたわけではない。つまりそこでのまーくんは、相変わらず恐らくは自らの孤独な(?)想念のセカイの内にこそある(いる)。それは紛れもなく身も蓋も無き自己完結であって、それ以外の何ものでもない。

だが、そこに再びあのみーちゃんが現れる。それは勿論「嘘」なのだが、しかしここに、正直自分は一片の「本当」を感じてしまうのだ。それは結局、たとえ「嘘」でしかなかったとしても、それでもそこに彼女がいて欲しいという、彼の嘘偽りない本当の「こころ」であると思われるからだ。なんとも小さな、小さなセカイの御話に収束してしまったものだが、しかしそれでも、それは少なくとも「嘘」ではないだろう。

そういう映画…というか物語であることを自覚したうえで、しかしそれはあまりに自己完結した、他者の存在を排除した物語であることを批判するなら、それは確かにその通りではある。その自己完結した物語の細部は、最初に述べたようにどこまでもステレオタイプな記号の集積でしかない。そこに描写されるおぞましい事件にも、あるいは登場人物にも、その背景には見出されてもいい筈の現実的な複雑さが全く見えてこない。全ては意匠に過ぎないからだ。

こういう映画…というか物語に接して思うのは、「嘘」は本気で吐かないと「本当」にはならない、ということだ。「嘘」は実際、その本質は単純素朴でいい。ただそれを、本気で率直に物語るべきなのだ。つまり、「嘘ですけど」なんていうアリバイをやめて、これこそが本当なんだ、と信じて物語ること。どうせ嘘だ、と謗られる恐ろしさを引き受けて、それでもそれを他者に伝えようとすること。

ちなみに、大阪弁で喋る女刑事の田畑智子は“面白かった”。こういう役もちゃんとソツなくこなせるということに感心した。(「感心した」なんて如何にもエラそうだが、個人的にこのひとのことは、ついいつも「田畑さん」と呼ばわってしまう。)

(評価:★3)

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