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[コメント] ディスタンス(2001/日)

冒頭から伏線はりまくり
FRAGILE

 カルト教団で無差別テロを実行し果てた加害者の遺族が命日に集まり遺灰の眠る湖に花を手向ける。人里離れたその地で移動手段を失い元信者と共に一夜を過ごすという話。

 元信者と一緒に一晩を過ごすという特殊な環境で遺族はそれぞれ家族との思い出を紡いでいく。ふと思い出したように、またやりきれない沈黙を埋めるようにポツリポツリと交わされる会話は同監督の前作『ワンダフルライフ』を思い起こさせる。役者に最低限与えられた設定とセリフの自由さが単なるアドリブとは違ったリアリティを醸し出している。  これがドキュメンタリー出身という監督ならではの手法なのだろう。多分に断片的で何の脈絡もないと思われるセリフのやりとりが再構築されている様はストーリーに対する高い技術と感性を感じさせる。

 役者陣はこの監督の手法に見事にはまっているARATA伊勢谷友介浅野忠信りょう遠藤憲一などがいる一方、明らかに戸惑いがちな寺島進夏川結衣のコントラストがとても面白い。名前の出ていないところでは津田寛治もいい感じ。浅野忠信とのかけ合いがあるりょうは意外なかわいさを見せている。

 テーマとしては「カルトな人々と自分たちの差はどこにあるのだろう」「向こう側とこちら側を隔てているものとは」「それを越えて行ってしまった理由」を最も身近にいた人間を通して見てみると言うことなのだろうが、やはり今ひとつ響いてこない。まったく理解できないわけではないし、そもそもカルト的なものを人は誰しも内部に秘めているものだとは思う。その上で、『ワンダフルライフ』のように自分の体験や感覚を総動員して考えてみようとさせる力に欠けている気がする。それがテーマが持つ性格故なのか、映画作品としての出来がそうさせるのかは判断できないけれど。  また、そのせいなのだろうか、ラスト近くにもう一つ、「人は何者として生きているのか」「何者かでなければ生きていけないのか」というテーマが出てくる。むしろこちらの方が見ている側には訴えかけるものがあるように思うが、作品の冒頭から伏線張りまくりでラストの意外な展開へとつなげているので少々分かりにくい。

(評価:★3)

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