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[コメント] 千と千尋の神隠し(2001/日)

少女にメッセージは届いているのか
FRAGILE

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 不思議な世界に迷い込んだ10歳の少女の冒険物語アニメーション。

 いわゆる「宮崎アニメ」の魅力がそこかしこに満載となっている。動きが多く、一つの画面の中に描かれている要素が圧倒的に多いのは、現在のアニメの中では貴重な存在。その分、キャラクターの表情も豊かだし、脇のキャラクターに至るまで独特な魅力を持っている。  一部に「昔ながらの」という形容詞が付けられがちだが、CGもふんだんに使っているし、音も最新の音響効果を実現している。また、全編がデジタル処理されていることでDLPというフィルムを使わない上映もいくつかの映画館では行われている。

 最新技術ばかりでなく作品としてもメッセージ性は強く、名前の取扱いを巡っては日韓併合の問題を想起する向きもあるだろう。  その中で、ここでは宮崎駿監督があちこちでコメントしている「10歳の女の子に見てもらいたい」ということについて考えてみたい。

 他の方も指摘していたが、作品を通して「少女版○○」といったシーンが次々と出てくる。「未来少年コナン」「銀河鉄道の夜」「ネバーエンディングストーリー」、最後は古事記からヨモツヒラサカのエピソード。ざっと見て分かる範囲でもこれだけある。パンフレットによると海外の童話に似た要素もあるという。  これらの共通点はいずれも少年(男)が主人公の話であることだ。もちろん、主人公を少女に置き換えることの意義はあるだろう。昔話や童話の冒険ものの主人公が少年ばかりであるという傾向と影響は古典フェミニズムの指摘するところでもある。少女が主人公となる冒険物語は少女(女性)が少年(男性)の従属物でないことを意識させる上で重要という論拠だ。  しかしながら、観客動員の多さばかりが話題となるこの作品のそうした描写は、少年だった大人たちにノスタルジアを感じさせることで映画館に足を向けさせているだけように思えてならない。  ここで指摘したいのは昔どこかで見たシーンを繰り返すこと、再構築することを否定するものではない。  ただ、監督自身がコメントしているように、この作品の各場面が本当に(サブキャラクターの過剰なまでのかわいさを越えて)メッセージとして少女たちの心に刻まれるのだろうか、ということに不安を感じてしまうのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)peacefullife[*] ina[*]

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