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[コメント] ドリーム(2016/米)

良さげなエピソードをぶつ切りのまま雑に並べて雑な構図で撮影して雑に編集しただけの雑な映画だった。不合理なお作法(この場合は人種差別なのでもっと深刻だけど)が仕事を邪魔するのを突破してプロジェクトを成功させるという燃えるネタが凡庸な映画に仕立てられてしまいあまりにも残念。
月魚

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







エピソードを時系列に並べただけなので物語としてそもそも成立していないし、ひとつひとつの場面もただカメラを回しているだけで何を伝えたいのか意志が伝わらない感じ。

例えばトイレのエピソードひとつとっても「COLORED LADIES ROOM」の看板を壊すまでに別のエピソードを何度も挟みながら同じシーケンスを繰り返し見させられるけど、「書類を机上にドサッ→計算→貧乏揺すり→トイレ→駆け戻る」を3回ばかりテンポ良く繰り返して、そのままハリソン(ケヴィン・コスナー)がキャサリンがいないのにぶち切れる→看板壊す、と畳み掛けるようにやった方がいいんじゃね?とか素人目にも思うのです。

その他、全般的に「(主に白人側の)気持ちが切り替わるスイッチ」が見えないのも気持ち悪い。冒頭のパトカーのシーンでも、なぜ敵意を持つ警官が先導してくれるようになったのかとか、なぜミッチェル(キルスティン・ダンスト)は最後にドロシーを「ミセス・ヴォーガン」と呼ぶようになったのかとか、終盤ハリソンに「君の仕事は天才を見出すことだ」と言われたスタッフォード(ジム・パーソンズ)はそこでは何の反応もみせないまま、いつの間にか歩み寄ってるとか、ずーっとしゃっきりしないままモヤモヤと薄ぼんやり話が進行するのです。

要するに、おいしげなエピソードをつまみ食いしただけで再構成がないという、実話ベースの映画やルポルタージュにありがちな大失敗例、または、この原作の映画化権獲得競争があったとしたら、負けた方は「俺たちから映画化権を奪いとって作ったのがこれかよ!」って怒髪天を衝くレベル。

カラード・コンビュータ(有色人種計算手)と呼ばれた黒人女性たちが密かにプログラミング言語を学んでいて、満を持して危機を救うためにずらっと並んでコンビュータ室に乗り込むところとか、ほんとに涙がでるほどかっこよかったりするのになー、ほんとに。

あと音楽も最終盤のアポロ13を思い起こさせる(おそらく)ハンス・ジマー担当部分以外は喧伝されているほど素晴らしくもなく。もちろんこれまた曲の良し悪しではなく、どの曲も脈絡無くBGMとしてかかっているだけでドラマに貢献していないという、使い方の問題なのだけど。

ちなみに「ドリーム:私たちのアポロ計画」という当初邦題がブーイングの嵐にまみれた際に私が考えた代案は「秘密の算数娘」。原題「Hidden Figures」のダブルミーニング「隠された数字」と「陰の人々」を上手に取り入れていて素晴らしいと思うんだけどあまり褒めてもらえないですね。

<追記>

ハリソンがガムをひっきりなしに噛むところ。原作未読なので本当にそうだったのかもしれないのだけど、まるで「ここでタバコを吸う」というト書きを見せられてるような気持ちになる。時代背景なんだからあそこまで不自然に排除するのは宇宙空間で音が出る演出以上に気になった。

(評価:★3)

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