コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 生きものの記録(1955/日)

彼の行為そのものが他人の人生を翻弄し破壊するものだ、ということに本人が気付いてないのが一番の問題。惑わされてはならぬ。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 中島がやっていた行為は「人類の未来のために核戦争を阻止しようとキチガイのように戦う」ではなく、「自らを守るために核戦争から逃げること」でしかなかった。核が恐ろしいのは誰でも分かっているが、逃げることと阻止することは根本的に違う。ラスト近く、留置所に入れられた中島を同室していた男達が嘲笑い「そんなのは総理大臣にでもまかせとけばいいんだ」と言う。彼が戦争を阻止するためにアメリカかソ連に渡って大統領に直訴する、というのであればまだ理解者はいるかもしれないが、中島がやっていたのはそんな大きなものではない。

 確かに核戦争が起こる確率は天が崩れてくるよりも高かろうが、これでは敏感とか鈍感というよりも自分勝手だ。そんなに助かりたければ自分だけブラジルにでも隠居しろ、と言えば終わってしまう問題にも見えてくる。そんな非情な決断が出来ない中島は、自己中心的で、実に小さな器の人間に過ぎなかった。そしてむしろ、中島のような人間こそが核戦争を起こしかねないのだ。考えてみてほしい。「工場を燃やす」という行為こそ、自ら、家族、そして先の騒ぎに何の関係も無い従業員の生きる術を根本から無くすものではないか。彼こそ核戦争そのものだ、と言い切っても過言ではなかろう。

 ラストで「地球が燃えとる燃えとる」と言っているにも関わらず、全然悲しそうではない中島。おそらく、燃やした原因が自分だということに、一生気が付かずに終わるのだろう。無責任な男だ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)Bunge[*] 煽尼采[*] TOMIMORI[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。