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[コメント] 蝿男の恐怖(1958/米)

あのラストを見てしばらく蝿が叩けなくなりました。とにかく虫唾が走る!
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……愛する妻ヘレンの前で物体電送装置のテストを行うアンドリュー。日本からの土産物のお皿を転送させ「ほら、上手く行っただろ」と言う夫に妻は「でもあたし、こんなになるのは嫌だわ」。お皿をひっくり返すと「MADE IN〜」の部分がアナグラムのようにデタラメになっていた。「蝿男」がどういう物かは知っていたので、ああこれはその付箋なんだなというのはすぐに理解できた。

 だがこれは意表を付かれた。生物の転送は可能かどうかをテストするべく、ペットの猫を装置にかける。スイッチを入れると送信側から猫の姿は消えるが、受信側のスイッチを入れ忘れていた。その時電子音が混じったようなか細い猫の鳴き声が「……ニャー……」。さすがに気味が悪かった。ちょっとしたミスを犯すだけでもこんなことになってしまうのだ。

 それから後はもう皆さんが鑑賞した通り、蝿が紛れていたというちょっとしたミスがアンドリューに悲劇をもたらす。自分を元に戻そうと、妻に「頭の白い蝿」を捕まえるよう銘ずる夫。だが彼の頭脳は、徐々に入れ替わった生物のモノとなっていく。慰めの言葉をかける妻に対し夫は一言黒板に書きなぐる。「NEED FLY」それしか無いんだ!だが結局それは適わず、ついに妻に真の姿を見せてしまう。絶叫する妻を見ている彼の視点は、既に人間のモノでは無くなっていた。畳み掛けるように悲劇は起きて、何一つ状況が好転せず、絶望したアンドリューは死を選ぶ。ヘレンはこの話を全て打ち明けるが信じてもらえず、容疑者として逮捕されてしまう。

 これで話が終わっていたら、本作は高評価など得ていない。問題はこの後だった。頭の白い蝿のことを忘れかけていた時である。「ヘルプ、ミー!」

 ……フト気が付いた。アンドリューの頭脳が蝿になって、その頭脳が徐々に蝿の物になっていくということは、蝿ではその逆のことが起きていた、ということか?これに気が付いた瞬間に思わず悪寒が走った。その蝿がクモに襲われるシーンは正視できなかった。警部がクモの巣を潰してしまうのを「ひどい」と評価する人もいるだろうが、無理もない。きっと自分と同じ気持ちになったのだろう。無論「それは殺人と同じじゃないのか」と問われたら、返答に給するのも一緒だと思う。

 ラストではヘレンが無罪となって息子と共に再出発していくという、ちょっとだけ救われる展開になったが、「頭の白い蝿」の気色悪さはそれから数日残った。バイト先のラーメン屋ではしょっちゅう蝿が出てきて叩きまくっていたが、これを観てから数日間は「頭の白い蝿がいたらどうするか」と本気で躊躇していたくらいである。

 本当に怖いホラー映画を観た気がした。

(評価:★5)

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