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[コメント] ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃(2001/日)

本作が作られたことを嬉しいと思う反面、トンでもないことをしてくれたという気にもなる、実に複雑な映画。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……『ゴジラ2000ミレニアム』はそれなりの木材やら火種やらを持っていたにもかかわらず、風向きを間違えたり扱う人間が下手だったので、くすぶる程度の小さい火にしかならなかった。その火に対し、空気を送り込んだり風向きも計算に入れて、まあまあ燃え出した感じにはなってきたのが『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』だった。そんな感じだった火に金子監督は何をしたか? 何と監督は、そこへ大量のガソリンをぶち込んだのだ!あっという間に尋常ではない炎が広がることは間違いない。それを「凄い」と思う人もいれば「おい、ちょっと待てよ!」という人もいるだろう。呆れる人もいるはずだ。本作は、まさにそういう映画なのである。

 怪獣出現の巻き添えになって倒れ、傷つき、死んでいく人々を、徹底的に描いている。ゴジラの足音で揺れる木造の民宿(この後ゴジラに潰される)、がけ崩れに中の客ごと巻き込まれる土産屋、そして放射能火炎を食らって吹っ飛ぶ防衛隊の兵士達……。

 いや確かに、こういう描写は決して珍しいわけではない。第1作の『ゴジラ』では逃げ行く人々にゴジラが迫り、放射能火炎も浴びせているシーンがある。アメリカ版『GODZILLA』では最初NYにゴジラが出現した際、逃げる群集の上から足がズドンと降ってくるシーンもある。同じ金子修介監督の映画ならば『ガメラ3』の渋谷襲撃シーンもそうだろう。決して、過去にやっていないことではない。だが本作の場合は、それをパニック描写の一部分として考えるわけにはいかないのである。では何が絡んでくるか?映画をご覧になった方ならすぐ気が付くはずだ。

 50年前、戦争による「悲劇の連鎖」(『ゴジラ』1954年版コメント参照)を引きずりながら東京を蹂躙したゴジラが、全く同じものを引きずりながら現代の日本へ上陸したのだ。「戦没者達の残留思念の集合体」という新たな設定と一緒にである。先の戦争で死んだ人々は200万人を超すという。広島、長崎、沖縄、東京、いやここだけに限らない、日本各地が空襲に遭い、何百万もの命が失われたのだ。例え戦争に直接関わっていようといなかろうと、一度戦争が始まればあらゆる人々がその意思・行動に関係無く「悲劇の連鎖」に巻き込まれ、犠牲になってしまうのである。60年前の日本は、そういうような光景が太平洋の島々(沖縄庶民の集団自決や“バンザイ岬”を知らないとは言わせない)で、また日本各地で繰り広げられていたのだ。

 ゴジラは、そんな人々の無念・怨念を全て背負い、現代に復活を遂げた。「悲劇の連鎖」など忘れている日本を、12月8日と8月15日が何の日だかも忘れている日本を再び戦争に巻き込もうとしている。ゴジラの襲撃に巻き込まれ傷つく人々、ゴジラに戦いを挑み、命を落とす人々……。あの戦争と同じことが、現代の日本で繰り広げられてしまったのである。あたかも第一作目『ゴジラ』で、終戦から9年後の東京がかの戦災と同じように廃墟と化し、病院がまるで空襲後の様相を呈したかのように!

 そして怪獣達によって傷つき、倒れる人々から目を背けることなく、命がけで全てを伝えようとする新山千春。「戦争」によって尊いはずの命がことごとく失われていく様子を、彼女は残そうとしている。「悲劇の連鎖」に巻き込まれ、命を落とした大勢の人間達を、忘れてはならない……。事実から目を背け隠蔽している限り、この問題は終わらない。例えゴジラが死んだとしても、我々は「あの戦争」があったという事実、「あの戦争」で起きたことを全て残していかねばならない。映画のラスト、ゴジラの形こそ消えたが、唯一「心臓」だけ残り脈を打っていた描写は、それの暗示なのだ。

 ……それにしても、ゴジラが最凶最悪で、モスラ・バラゴン・キングギドラがヤマト聖獣という、従来のゴジラ映画路線からはあまりに突拍子もない設定であるにもかかわらず、怪獣史に残る凄い映画に仕上がってしまった。しかし……この映画、もう2度と作ることは出来ない「禁じ手」のような感じがする。同じようなテーマでこしらえることは、至難の業である。この後、ゴジラシリーズ続けて大丈夫なのか?本作の後に続く作品は、これが足枷となりはしまいか?とかなり気にしてしまった。それ故、心境としては少々複雑ではあるが。

「観ろ、とにかく観ろ。私の中では120満点中の100点だ。なぜ100点満点中の80点でないのかは、観れば判る。そして熱く語れ」

 と、ある評論家の方が記していた。それに倣うなら、これは6点満点中の5点だ。観終えた後の何とも複雑な気分を表現するのなら、こうとしか言いようが無い。

(評価:★5)

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