★3 | フラワーズ・オブ・シャンハイ(1998/日=台湾) | 溝口的状況がジョルジュ・ド・ラ・トゥール風の切り詰められた光の下で展開される。溶暗と溶暗の間のワンカット室内撮影、演技者は食卓にたむろし煙草を吸い茶を飲むことしか許されないという過酷な条件下で、遊郭の奥深い人間関係と歴史が玲瓏と肌理細やかに浮かんでくる。 | [投票(2)] |
★3 | ホウ・シャオシェンの レッド・バルーン(2007/仏) | 家庭=家族という、いつの間にか劇映画が陥っていた認識の垢を清清しく拭い取り、異国人や家屋や家具や出入りする友人や業者も含めて家庭が形成されていく有様を、深刻ぶらずに再認識させてくれる目からうろこの映画。風船はこの家庭を見つめるまなざしの機能をもつ。 | [投票] |
★5 | 冬冬の夏休み(1984/台湾) | 緑陰の美しさを忘れることはないであろう傑作。窓外はややきつめのハイキーに、家の中は白壁の温度感にあわせたローキーに、人の肌のみ適正露出に。これで夏の日差しと家の中をそよぐ風の動きが見えてくる。設定だけ決めて俳優の周りに確りと空間を作ってやればドラマが回るという目論みの確かさ。 [review] | [投票(4)] |
★3 | 風櫃〈フンクイ〉の少年(1983/台湾) | 若竹の美しさを感じさせる。シンプルな筋だが飽きさせない。キャメラと俳優の距離感の取り方に特長があり、風景の絡ませ方が滅法うまい。特に、屋内描写に外の風景が生々しく入り込んでくる強烈さに感心した。この監督の多くの美点の中で最も輝かしい部分だ。 | [投票(1)] |
★5 | 悲情城市(1989/台湾) | 当時の映画界を揺るがしたであろう巨大地震のような傑作だ。暗い青灰色を基調にした静謐な背景の中で女達の着衣や電飾看板の桃、朱、紅、橙が目にしみるように美しい。内容の凄惨さとの際立った対位法。アジア社会の家族崩壊の過程を描いた映画としてアメリカのコルレオーネ家のそれと拮抗しうる。 | [投票(1)] |
★4 | 百年恋歌(2005/台湾) | キャメラの味わいが各作ごとに異なる。断ったばかりの百合のような第1部のみずみずしさ。硬質な磁器の感触を醸す第2部の厳かさ。被写体への思い切った接近がスリリングな第3部の切れのよさ。質感の違いが100年を2時間に封じ込めることに成功している。 | [投票] |
★4 | 珈琲時光(2003/日) | 絶妙な光量の中で被写体が自足し花を咲かせているかのようでもあるが、ひと時の日常光景をとらえるキャメラの凝視力が、被写体の可視性を次第に溶解し、透明性の向こう側に息づく人生の不穏というテーマをあぶりだしていくプロセスが、幾何学の証明のように正確で美しい。 | [投票(1)] |
★4 | 童年往事・時の流れ(1986/台湾) | 省略を拒み、直視すべき光景を冷徹に冷静に観客に見据えさせる無骨さと不器用さが、ドラマ性を抑えた静かな画面構成や美しい風景描写と両立している奇跡に驚かねばならない。一方で、見えすぎる眼鏡をかけさせられたようなかすかな不快感も残る。 | [投票(1)] |
★4 | 恋恋風塵(1987/台湾) | 俳優の周りの空間を取り込む構図感覚に磨きがかかり、浅い被写界深度による画面整理も実に上品。端役にまで演技と思わせない塩加減の演出を施していく作品掌握力がすごい。ここまでいくとうますぎるいやみが出るところ、訥々とした語り口にして抑制を利かしたところに監督の聡明さが伺える。 | [投票(3)] |