[あらすじ] アビス(1989/米)
【背景】
冷戦体制下。昔むかし、ソ連という国がありました。ソ連と米国は軍事競争に明け暮れ、核兵器による激しい威圧合戦が続いていました。MIRV(多弾頭各個目標再突入核弾頭)という、一発で八都市を破壊できる多弾頭を持つトライデント・ミサイルを数十基載せた原子力潜水艦(以下「原潜」と省略)が、太平洋や大西洋のあちこちの海中を、攻撃命令を待ちながら待機しています。
双方の国は、相手国の原潜を見つけるのに血まなこになっています。原潜がミサイルを発射するためには、水面近くまで浮上しなければなりません。でも浮上したときに気づいたのでは手遅れです。海中深くに待機している原潜を見つけなければならない。それを探知するために人工衛星や、追尾するための潜水艦を動員して、必死になって探します。原潜はいったん海中に潜ると、なんと一年は楽に潜っていられるんです。追尾する潜水艦も互いに監視ししあいますから、まるで金魚のフンみたいに監視する潜水艦がつながっている……これ、本当の話。
また、この原潜には軍事機密がたくさん詰まっています。暗号解読書、コンピュータ、核弾頭、誘導システムなど、相手国に知られたら困る秘密がたくさん乗っているんです。もし、この原潜が沈没したら、相手国の手に渡る前にすべての機密を回収するか抹殺しないと自分の国が危ない。
ところがある日、戦略核兵器を搭載した原潜が消息を絶ってしまいました。沈没した可能性は大きい。しかもその原因は不明です。このとんでもない不祥事に米海軍当局は焦りまくります。そこで沈没現場付近で作業している民間のディープコアに援助を求めることにしました。
【舞台 - ディープコア】
ディープコアは海底を掘削(ボーリング)して油田を見つける作業をする基地です。海底と言っても 500 メートルもの深さですから、大変な水圧が掛かっています。ここから海上に戻るには、ゆっくり減圧する部屋に籠もって三週間の減圧生活をしなければなりません。急に海上に戻ると、血液は沸騰し即死してしまいます。一時間に水深一メートルの割合でゆっくり減圧しないと潜函病になってしまうのです。
したがって喧嘩になれば逃げ場はありません。あいつは気に入らないからといって家に帰ることはできないのです。また、地上では少々の事故ですむことでも、深海では命にかかわる重大事故につながります。だから気を合わせることが肝心。現場監督のバド(エド・ハリス)はみんなの気持ちを合わせる名人でした。
そこへバドと不仲になっている妻のリンジー(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)がやってきます。「悪いのはみんな俺のせい」にするリンジー。それだけでも十分揉めごとのタネになるのに、見ず知らずの SEALs (*1)の隊員4名がいっしょに乗り込んできたのですからたまりません。隊員たちは原潜救助のために、命令に従えと迫ります。
海上はものすごい嵐になっています。ディープコアを繋留する海上基地エクスプローラは退避しなければなりません。繋留するケーブルを外すのはディープコア側の作業です。でも、ディープコアでは、それどころではない事態になっていきます。
【劇場版と完全版】
アビスには劇場公開版141分のほか、特別版164分、完全版171分など、たくさんのヴァージョンのものが出回っています(*2)。劇場公開版は不良品といえるでしょう、意味不明の結末で終わるからです。
【小説版】
監督ジェームズ・キャメロンは、単に脚本を小説化した、いわゆるノヴェライゼーションを拒否しました。そして「本物の小説を書いてもらう」ことに決め、ヒューゴー賞、ネビュラ賞を受賞したSF作家のオースン・スコット・カードを起用し、台詞も変えず、映画に忠実な小説を書かせました。主演者のメアリー・エリザベス・マストラントニオとエド・ハリスは、小説版につけ加えられた登場人物の幼年時代の章を読んで撮影にのぞむことになりました。また、小説化したスコットは(長年脚本家・演出家の仕事もしていたのだが)撮影に立ち合い、撮影されたヴィデオを観て、映画では表現できない明晰なディティールを創作しました。ちなみにわたしは劇場公開版を観たあと、この「小説」(角川文庫上下2冊)を読み、その後、完全版を観ましたが、できることなら映画の記憶を消去して小説の知識だけで完全版を観てみたい思うほど小説版も秀逸です。スコットは小説の「著者あとがき」で、映画に出演した俳優全員が、映画と小説の共同製作者であると宣言。出演者全員の名前をあとがきの中に再録して共著者であると強調し、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、マイケル・ビーン、エド・ハリスの演技についてコメントを書いています。
「怪物と闘う者は、その過程でみずからが怪物と化さぬよう、心せよ――長く深淵(アビス)を覗きこむ者は、深淵もまた覗き返す」……フィリードリッヒ・ニーチェ(小説版『アビス』巻頭の引用文)
【追記】
アカデミー視覚効果賞を受賞。全世界で1億1000万ドルの興収をあげ、特に深海に登場する未知の生命体の驚異的なキャラクターを描き出したSFXのコンピューター・アニメーション技術に注目が集まりましたが、お話は卓越した心理描写とラブ・ロマンスが軸になっています。"You've never given up in your life, now fight!!!!"
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*1) SEALs: 米海軍トップレベルの特殊部隊、海・空・陸特殊作戦部隊で水中の破壊工作を行う。SEALは"Sea Air And Land"の略。水中に限らず、陸上や空での特殊任務もこなす。(『ネイビー・シールズ』『G.I.ジェーン』『ザ・ロック』参照)。コフィー役を演じたマイケル・ビーンは、『ネイビー・シールズ』『ザ・ロック』でもSEALsの隊員役を演じた。
*2) IMDb: Alternate Versions for Abyss, The (1989)→http://us.imdb.com/AlternateVersions?0096754
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