三池監督で＜さぶ＞とくればスゴイ映画を連想するが、今まで見た中では「中国の鳥人」よりもさらにまっとうな映画だった。時代劇だが青春ドラマぽい。山本周五郎の原作だった。

撮影、照明、編集、音楽といつもの三池組の人。それでいて地に足のついたしっかりしたドラマを見せる。特にコントラストの効いた影を作り出すライティングがきれい。

役者では、主演の藤原達也が線が細くてケンカ無敵の狂犬キャラには役不足。妻夫木君はナイスボケ連発で良かった。こういう２枚目半はいいね。三池組と言える人は少なかったようだが、遠藤憲一がやっぱりうまかったし、「殺し屋１」でチョーおもろい中沢会長やってた有薗芳記が泣かせた。まともな役もできるのね。

あとは沢田研二。うまく力が抜けて味わい深いキャラ。彼とのカラミを含めて人足寄場での体験が主役の栄二（藤原）の人生観を変えていくのだが、もう一息踏み込みが足りなかった。女衒で悪党の堀部が泣かせる死に様を見せたのも急な心変わりだったし、栄二自身の心境の変化も石川島の四季の移ろいを映しながら丁寧に描いて欲しかった。そうすれば元締め同心・沢田の、浮浪雲のようなやさしい悟りの言葉が活きてきたと思う。

とにかくＢ級な臭いがほとんど感じられない気品あふれる演出で泣かせてもらいました。 時代劇と三池監督好きなのでプラス１点。