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[コメント] 暗黒街(1927/米)

この時代でスタンバーグは表現の限界に挑もうとしているようです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 流石に時代的なものがあって表現的には稚拙なのだが、物語はかなり高水準にまとまっていて、展開はかなり見させてくれる。

 本作の最大特徴としては、表現そのものよりも人間の心の動きに注目している点。主人公ブルは孤高な泥棒で、他の誰をも信用しないようでいて、心のどこかで純粋な友情を求めている節があり、そしてようやく見つけたロールス・ロイスを信用したがっている。だがやはりこれまでの生き方を変えることも出来ず、ロールス・ロイスが彼に持つ純粋な友情の気持ちを本当には受け止めることが出来ない。むしろ裏切ってもらった方が気分は楽になる。という微妙な役どころで、極めて複雑な心情を表現してる。そんな豪快でいて繊細な役をバンクロフトが好演。台詞無しでも充分その力強さが伝わってくる。

 やがてそこに醸し出される持って行きようのない感情の動きこそが本作の面白さで、これこそがフィルム・ノワールに大切なもの。ブレントは後半ちょっと献身的すぎてファム・ファタルとしては力不足だが、前半部分の存在感がなかなか見せてくれる。あの謎めいた感じをラストまで押し通してくれれば本当に完成された作品になったんだろうね。  先に表現は稚拙と書いたが、この当時の最大限の表現方法が用いられているのは確か。カフェでのモブシーンで、登場人物それぞれの個性を際だたせるやり方と言い、光と影の対比と言い、映画表現を最大限行おうとするスタンバーグ監督の意地のようなものが見られるだろう。

 ラストシーンはやっぱりハリウッドらしく道徳的に終わるが、これがギリギリの表現だったのかな。驚くほど人の死も少なく、事情を知ったブルも、最後は抵抗せずに捕まえられてしまったのが、今から観るとオチの弱さに感じられてしまう。

(評価:★4)

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