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[コメント] 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(1964/英)

冷徹で皮肉な内容とは対照的に優しく流れるロマンティックな音楽は,愚かな人類に対する子守歌のようだ。
ワトニイ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この作品,ずっとブラックジョークの傑作だと思ってきたが,最近,観直してみて,実は,かなりリアルな話だったのだなと実感した。

例えば…,

○ 秘書と不倫をする将軍

○ 平和主義的でいい人だが決断力に欠ける米国大統領と,肝心な時に時に酔っぱらっていて使えそうにないソ連首相

○ 今の事態がどうなっているのかもわからず,ただひたすら与えられた任務を遂行しようとする爆撃機の乗組員たち

○ 端から見ていると簡単そうなのに,一度動き出してしまったがために,大統領や将軍でも取り消せない攻撃命令

○ ただ一人で正論を主張しても,なかなか信じてもらえない英国大佐

○ 他者を省みず,極端な思想に凝り固まっている人々(共産主義を嫌悪する将軍たちやストレンジラヴ博士)

○ 大局的な(世界存亡の)危機に直面してさえ,些細な自分のこと(米国作戦本部内の隠し撮り)を第一に考えるソ連大使

これらは誇張こそされているものの,結構私たちの身の回りにあり得ることではないか? それが国家と軍隊を舞台にしているため,また核攻撃を題材にしているために,観る人は,シニカルなブラックジョークと取ってしまうが,程度の差こそあれ,これらは私たちの身近なところで起きていることだろう。キューブリックは,それをデフォルメしただけなのではないだろうか?

この作品が核戦争に対する警鐘を打ち鳴らしていることは確かだが,もっと広い意味で,我々の身近なところで行われている様々な愚行を通じて,人間の愚かさを痛烈に批判しているような気がしてならない。

それにしても,オープニングの甘く夢見るようなロマンティックな音楽と,エンディングの「また会いましょう」という歌は,冷徹な内容とは対照的で,実に見事なコントラストを描いている。

特に「また会いましょう」の優しいメロディを炸裂するキノコ雲に重ねた発想は,すごい。歌詞の中の「青空が暗い雲を吹き飛ばしてくれるまで」とか「 また会いましょう/どことも知らず,いつとも分からないけれど/でもいつかまた晴れた日に会いましょう」とかいうところは,既存の懐メロなのに,恐ろしいくらいに見事にはまっている。こういうキューブリックのセンスには,ただただ脱帽するほかはない。

(評価:★5)

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