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[コメント] イン・ディス・ワールド(2002/英)

もしかするとこの映画には、マイケル・ウィンターボトムという人の「作家性」が最も顕著にあらわれているのかもしれない。(03.12.18@梅田ガーデンシネマ)
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マイケル・ウィンターボトムの作った映画にはとても好きなものも、そうでないものもあるが、とにかく一作ごとに作風がちがっていて、「作家タイプ」の監督としては珍しいな、不思議な人だな、とずっと思っていた。

わたしの経験では「作家タイプ」の監督の映画は、一作一作が全てその人の世界だ。どの映画にも「その人の宇宙」が広がっている。そしてそれが良いか悪いかは私にはわからないけれど「作品」というのはそういうもので、作り手の個性が強ければ強いほどその傾向も強くなり、何が言いたいかと言うとつまり、その人の映画はその人の宇宙として「完結する」「閉じる」ということだ。

イン・ディス・ワールド』はドキュメンタリー的手法を大胆に取り入れて作られたフィクションである。しかしこの映画の感触はそのどちらでもないようなものだ。それは「ドキュメンタリー的手法」と「映画的話法」の両方をとても巧みに駆使したウィンターボトムの力量の高さによる成果だが、この映画の魅力はそのことだけでは言いつくせないように思う。

作品世界のこの「開かれた」感じ。この映画を観ているあいだずっと感じていた不思議な感触は、そう、「開かれている」という感じだ。ドキュメンタリーであろうとフィクションであろうと、作り手の個性が強ければ強いほど、作品は、まぎれもない「その人の宇宙」として完結の度合いを強める。ところがこの映画はそうではない。主題も手法も明確な意志を持って選び取られ、緻密と言って良いほどにしっかりと構築された映画にもかかわらず。それが何によってもたらされるのかは私にはまだわからないが、もしかするとこの「完結しない=開かれた」手触りこそがウィンターボトムという人の作家性であり、だからこそ一作ごとに違った作風を観せ続けるのかもしれない。

そしてこの映画はその持ち味が最も顕著に、そして効果的にあらわれた作品ではないかと思う。『ウェルカム・トゥ・サラエヴォ』では成功していなかったことが、この映画では見事に結実している。それは観客に「傍観者でなくさせること」だ。映画を観ているひとときだけでも、それは無駄なことではない。ほんのひとときでも、本当に胸に刻まれたものなら、決して消えはしないからだ。

(評価:★5)

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