[コメント] 悪い男(2001/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
まず、予告編を見た時のショック、プロットを初めて読んだ時のショックにより、干渉前に期待がデカくなりすぎていた事が残念でならない。映画に期待する行為は、ある種、映画を見る行為そのものを破壊する事に他ならないと思う。これを、何となく見に行ったのならば、ストーリーを全く知らずに見に行ったとすると、俺は劇場で呆然と感動していたかもしれない。
この映画が内包する衝撃性は、俺の脳内の妄想によって構築された「ねこすけ版『悪い男』」のそれに及ぶ物ではなかった(←当たり前だよ、俺の脳内なんだから、俺の好みが軸になるのだから)。
よって、この★4の評価は公平な物と見なし難い、と俺自身は思っている。
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と、言うのは、見ている最中、予想とのギャップに少々戸惑い、実を言うとがっかりしていたのだ。コレは俺が変に期待し素意義他だけの愚鈍な行為に他ならないのだが。
確かに少々退屈もした。元々疲れている状態で眠かったせいもあるかもしれない。しかし、この映画にははっと目を覚ませる強烈なシーン、カットが多数存在した。光と闇、色彩、そして写真の穴を上手く利用した演出。
例え、それが古くさかろうと、ベタであろうと、俺は目が覚めたんだから仕方ない。
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主人公ハンギを演じるチョ・ジェヒョンは1シーンを除いて一言も喋らない。結果、その感情を観客の判断に委ねる。
この物語はあくまで映画の世界の話であり、俺達現実世界の観客はただ見つめる事しか出来ない。そう、この世界は圧倒的なキム・ギドクワールドなのだ。その世界では、人間たちは不器用にストレートにしか感情を表現する事が出来ず、そこらの市街地を歩いているボンクラどもは興味の範疇に無いのだ。しかし、見ている俺達はこの映画の住人ではなく、むしろ無理矢理当てはめればヒロインの彼氏のボンクラ兄ちゃんになる。
つまり、俺達は何も分からない。何も知らない。この世界に入ることを許されない。しかし、キム・ギドクは俺達にそんな世界を無理矢理見せ付ける。
◇
確かに理解し難い愛の物語だ。果たして、これが愛なのか憎しみなのかすら分からない。
個人的に、主人公が女を堕とす事でしか愛せなかったのは、唯一の台詞に象徴されるように、自分自身がヤクザ者であり、ヤクザである事を痛いほど理解しているからだろう、と思う。彼には、処女膜のある女性を愛す事はできない。乳首がピンクの初々しい女の子を愛す事は出来ない。穴がガバガバの、とりあえずセックスする女、自分と同じ様に、同じ土俵に堕ち切った女しか愛する事が出来ない。しかし、そうなればもはやそれは愛ではないのかもしれない。彼に愛は無い。愛が無いからこそ愛がある。
「やくざ風情が何が愛だよ」
彼はそう叫んだ。自分自身に。
しかし、その堕とす事に対し少なからず抵抗を感じながらも、それでも愛する事をやめられず、堕としてしまう。そんな悲しい男の愛と、ただひたすら堕とされながら、自分が抱いているのが憎悪か愛情かすら分からなく女のファンタジー。
◇
海岸で拾う顔の無い写真。途中で何度か描かれ、そしてその後拾った瞬間に分かる通り、その写真に写っているのは彼ら二人。その奇妙な偶然か、必然か、運命にただひたすら呆然とした。
◇
ラストシーン、全てから解放され(逃げ出し)二人で旅を始める。その虚無的な二人の”堕ちた世界”からの逃避行の先には何があるのだろうか。
役者の演技力だけでなく、演出力は一級品。チョ・ジェヒョンの鋭い眼光はそのままキム・ギドク本人の目なのかもしれない。
なぜなら、チョ・ジェヒョン本人も「ハンギの役を理解しきる事ができなかった」と言っている。つまり、この映画はキム・ギドクのファンタジーワールドであり、描かれている男と女の二人だけの世界。
演じていた役者ですら介入する事の出来ない愛と憎悪、そして腐りきった腐敗の美しいファンタジーワールド。悲しい宿命を背負い、彼らは海を見つめる。
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