[コメント] かっ飛ばせ!ドリーマーズ カープ誕生物語(1994/日)
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――で、早速ですが、どこが「カープ誕生物語」なのか、小一時間問い詰めたい。
これはただの教育映画である。それも中途半端な。例えば「はだしのげん」の用に、原爆と言う現実を直視し、そこに生きる人間も直視した漫画でもなければ、「市民球団」としての当時のカープを描いて居る訳でもない。
中途半端な描写で、教育的な友情物語を描いたのみ。しかも、ここで描かれたのは「アメリカさんと仲良くするのも、悪くないんじゃね?」なオチ。いや、別に悪いとは言わないよ。でも、当時の日本、特に広島がそこまで皆能天気に野球に明け暮れてた訳でもないだろうし、アメリカ軍人と野球をする事だって、そりゃ「スポーツは国境を越える」とか何だ言っても、結局その根底には「原爆を落とされた」「家族を殺された」と言う悲劇が存在しているのが現実なのだ。
アメリカ人を嫌え、と言うのではない。でも、現実を直視せず、カープも描かずに教育者ぶってる映画なんか、俺は満を持して進める気にはなれない。
◇
どんな荒廃した土地にも、例えそこが「50年間は草木が生えないだろう」と宣言された街であっても、草は生えた。ビルも出来た。今は政令指定都市だ。例え瓦礫の山の中でも希望が存在した。例え防空壕の中に生きていて、どんなに絶望的な世界でも、何かしらの希望が存在していた。
それを描くのは真の教育映画たるモノじゃないのか。カープを描けば、必然的にそこに触れざるを得ないはずだ。カープは弱い。でも、その影にも数々のファンと選手のドラマがある。それこそ、カープが広島市民の心の中に生えた草木だったからだ。
絵が下手だろうと、音楽がベタだろうと、ストーリーが安直だろうと、それは問題ではない。その証拠に「はだしのげん」が評価されているではないか。
はっきり言って「カープ誕生秘話」と銘打って喜んでいるこの映画を読むよりも、昨年、首位打者を獲った嶋についての中国新聞のコラム数百文字を読む方が、遥かに感動するし、実際に俺は、そんな新聞のスポーツ欄の片隅の、最下位球団の中にあるドラマに涙した。
ドラマがあるんだ。カープには。他球団にもあるかもしれない。変に平和都市宣言とかして喜んでる都市かもしれない。万年最下位のチームかもしれない。「巨人の二軍」と呼ばれてるかもしれない。
でも、切り捨ててはいけないドラマがあるんだ。そして、この映画のタイトルからは「カープ誕生秘話」を切り捨てなければいけない、と俺は強く信じる。
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