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[コメント] 大通りの商店(1965/チェコスロバキア)

意外すぎる展開に、完全に唖然としました。これは凄いです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 珍しいチェコスロヴァキアの映画で、この年の日本からアカデミー賞にノミネートされた『怪談』(1965)のオスカー受賞を阻んだ作品として知られる作品。

 たまたまそれだけの情報を手に入れ、興味が出たので拝見。

 なるほど。これだったら『怪談』では敵うまい。テーマと言い、物語展開と言い、ガツンっときた。

 確かに印象としてはストーリーも練り込まれていないし、カメラワークなんかもごつごつした感じ。カラーで原色が映えた『怪談』と較べてみると、モノクロームの本作は美術的には到底かなわない。演出もあまり良くなく、ラスト近くになるまで印象としてはかなり退屈。

 しかし、このストーリーと設定に関してはほんと見事。というか、驚かされた。

 設定は気の弱い主人公による男性版『細腕繁盛記』みたいなものかと思わされ、その気の弱さで何事にも強く言えない主人公が、いつの間にか小さな店の使用人にされてしまい、ファシストの目が光る中、なんとか店を切り盛りしていこうという奮戦が描かれる、ペーソスあふれるコメディ調の物語だったのだが、それで終わるのかと思っていたのだが、歴史の流れはそれを許さなかった。

 結果的にトーノの気の弱さ、人を思いやる心は、戦争を前にして、逆に残酷な結果をもたらしてしまう。これが戦争でなければ、彼はちょっと生きるのが下手な、人から同情と笑いを受け取るだけの生き方が出来たはずなのだが(ちょっと書いていてグサッとくるんだが…)、その不器用さは、緊急事態を前にすると、儚いどころか、逆にあらゆるものを傷つけてしまう。何とも悲しい生き方だ。同じチェコ作品で『この素晴らしき世界』(2000)があり、ほぼ同じ状況を描いているにもかかわらず(主人公の性格まで似てる)、ラストがここまで正反対だと、驚くばかりだ。

 時として時代は人に優しさを禁じる。中途半端な優しさは時に残酷なだけにになってしまうこともあるのだ。それを眼前に突きつけられた気分だった。

 私自身が多分このトーノによく似ているからこそ、だからこそこの作品がとてつもなく痛々しく思えるのだろう。はっきり言ってこれは私にとって、とてつもなく“痛い”作品だった。

 それに演出はあまり良くないとはいえ、最後の最後、何の救いもないまま画面がホワイトアウトしたのには驚かされた。しばし、「本当にこれで終わりか?」と、画面から目が離せなかった。これも又衝撃的な作品だ。

 そう言えば貧しいユダヤ人の描写が中心になってる作品って映画では少ないので(『屋根の上のバイオリン弾き』(1970)はあるか)、資料的にもかなり貴重な作品と言えるだろう。

(評価:★5)

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