[コメント] 浮草物語(1934/日)
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戦前の小津監督作品はいくつかの系統の作品に分かれる。あたかもハリウッドを意識したような小粋なオシャレな作品。もう一つは、世相を取り込んで、当時を生きる人々のペーソスを織り込んで描く時事的な作品。そしてもう一つが本作に表されるような人情もの。特に主に坂本武を主人公とした作品群は“喜八もの”と呼ばれる。これらの作品がやがて統合されていき、戦後の小津作品を形作っていくことになる。
喜八ものについては、ほとんどが性的な話に至らないものばかりだが、本作は珍しく男女関係を中心に描いた話となっている(地方が舞台というのも戦前の作品ではかなり珍しい)。
しかし、そこら辺は流石小津。ドロドロの愛憎劇にしようと思えばいくらでも出来る世界を一抹の寂しさを加えてさらりと描き、しかもきっちり自分の作品にしてしまうところに既に非凡さが現れている。
本作の特徴は、全員が悲しそうな顔をしていると言う事があるだろうか。それは息子に対して本当の父親だと言い出せない喜八にしても、父無し子として育ちつつ、母を心配しつつ、しかし自分の可能性を信じたい信吉であれ、全てを自分の腹にしまい、ただ黙って生きてきたおつねも。ここに登場するキャラはみんな心に秘密を抱え、それを言い出すことが出来ずに、ただ寂しそうに佇んでいる。
その秘密が明かされたとき、全ての関係は一体壊れてしまうのだが、そこからのラストシーンに至るシークェンスは、全てを達観した清々しさも感じられ、これまた素晴らしい出来。人生の一番辛いときに笑う人間というのをここまでしっかり描いてくれた、やっぱり人情ものとして完成された作品だと思える。
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