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[コメント] 東京の宿(1935/日)

自転車泥棒』よりも13年も前にネオ・リアリスモが完成されていたとは、なんとも恐るべき話です。これが小津監督の実力か。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 戦前の小津監督が得意とした喜八ものの一本。戦後、撮影方法が確立するまで小津監督は実に様々な試みをしている。まるでハリウッド映画のような洒脱なピカレスク・ロマンものも作るが、最も得意としたのは純日本的なコメディ。特に喜八ものは多く作られた作品だが、これらに共通するのは、非常に厳しい現実世界に対し、それらを笑い飛ばすようなコミカルな演出だった。

 喜八は善人だが今ひとつ空気を読めない人間のため、すっとぼけた行動をすることがあり、ちょっと騙されやすい。それが魅力なんだが、息子役の突貫小僧が如才なく動き回るため、良い対比になってる。このコンビあってこその魅力とも言えるか。  本作の場合、コミカルな部分はやや抑え気味に、社会の厳しさの方が強調されているように思えるが、むしろこういった厳しさを強調した方が映画の作りとしては優れていたのではないだろうか?

 職が無くて街を彷徨う親父と、それにくっついていくしかない子供の描写が実に映えた…って、ひょっとしてこれって『自転車泥棒』(1948)なんじゃないのか?あの作品よりも13年も前にネオ・リアリスモが完成されていたとは、なんとも恐ろしい話だ。これ一本を観るだけでも小津監督の実力ってのが分かる。

(評価:★4)

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