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[コメント] 天使の影(1976/スイス=独)

音楽の扱いや演出は確かにシュミットだけど、この深刻さと饒舌さは紛うかたなきファスビンダー。自身の演技も良い味出してます。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







支配と服従。それは何も人間だけに限ったことではないのだが、人間界のそれほど複雑で、根拠が曖昧で、移ろい易いものもないのかもしれない。そして人間界の支配と服従というものは、ある目的のための手段ではなく、それ自体が目的であり手段であって、ただそれに言い訳がましく理由を後付けているだけなのでは。と、そんなことも思った。個人レベルのことから社会レベルまで、あらゆる事象に関わるその力関係がこの世界をかたちづくり、そして、あらゆる「欲」や優越と劣等という厄介な感情が、それらの原動力となっている。

娼婦、ヒモ、女装歌手、成り上がり。特異な人々を描いているように見えて、案外ファスビンダーの目には世界はそんなもので出来てるように映っていたのでは、と思う。淫売であり、フェイクであり、陳腐なパワーゲームであり。おそらくファスビンダーにとって、偽りこそがこの世界の真実だったのだろう。そんな空っぽな世界において、「愛」などどこにあるのだろう。自らの愛を訴えるヒロインのリリーは、どこに行っても、どこに存在しても、どこかしら場違いな雰囲気を常に漂わせている。この世に自らの愛の置き場所なんてどこにもない、その絶望が彼女を死に至らしめる。天使の影。彼女はこの世で成就することのないユートピア的世界が、現実世界に落とした小さな影のような存在だったのかもしれない。

いつもながらの苦渋に満ちた世界にやや引き気味になる傍らで、ファスビンダーという人はその一生でどれだけ多くの傷を負ってきたのだろうと、個人的にはなんともいとおしくなったりもするのです。幻滅、諦念の裏にあるやり場のない思いが伝わってくる、というのか。ともあれ、相変わらず素晴らしいイングリット・カーフェンも堪能。もう出てきた瞬間から、「あ、この人多分死ぬ」と思わせるその稀有なる個性(つーか実際死ぬ役多いよな)。

(2006/11/21)

(評価:★4)

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