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[コメント] 幸せのちから(2006/米)

父の落とし物と、息子の落とし物。
きわ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







教会の無料宿泊施設に並ぶ列へ走るウィル・スミス親子。途中で大事なおもちゃのキャプテンアメリカをおっことした時のジェイデン君の顔が・・・ あの後、息子に内緒で拾いに行くか、落ちてるのを見つけるとか、きっとそういう演出があると思ったけど無かった。親父の大事な商売道具は何度落としても盗まれても戻ってくるのに、少年のおもちゃは戻ってこなかった。

この父親はすごい。「良い父親」って、「良い母親」に劣らないくらい、なるのが難しいんじゃないだろうか。

私の父は仕事のかたわらアート活動をしていて、よく個展を開いたり海外のアートギャラリーに出して作品もそこそこ売れていた。そんな父をみて、周りの大人は「きわちゃんのお父さんはすごいことしているんだよ。本当に良いお父さんだね!」と口ぐちに言った。しかし私は、「良い父親かどうかは、その子供にしか判断する権利はない。そして父は良い父親ではない。」と思っていた。当時の父は、他人からすると「仕事も趣味も成功している」という面で「すごい人」だったかもしれない。でも娘から観ると「自分の都合ばかりで家族をふりまわす自分勝手な親」にしか映らなかった。子供からしたら、親が「成功している」か「負け犬である」かどうかなんてことは実は重要じゃない。毎日活き活きしてお仕事に行って、帰ってきたら自分と遊んでくれるかどうか。お休みの日は一日中一緒にいてくれるかどうか。そして自分と同じくらい、お母さんを愛しているかどうか。それが全てだ。なんの仕事をしてどれぐらい稼いでいるかとか、どのくらい有名であるかとか、そんなのはカウントされないのだ。

この主人公(ウィル・スミス)はすごい。どん底でも子供の前では決して弱音を吐かない。どんなに苦しくても子供に当たらない。それがどんなに難しいことか想像できる。親は時に、子供に甘えてしまうものだ。愛しているから弱い自分を吐き出してしまうものだ。でもそうしてしまっては終わりだということを、とても良くわかっているこの主人公はとても素晴らしいと思った。つい「プロバスケ選手なんか夢みるんじゃない。」と言ってしまった時も、「悪かった。お父さんが間違ってた。」とは決して言わない。「誰にも「無理だ」なんて言わせるんじゃない。たとえ自分(父)からでも。」というのだ。息子は「素直にあやまれよ。」と内心思うかもしれない。(この出来すぎジェイデン君に限ってそんなヒネたことは考えないかもしれないが)でも、本当はお父さんがどんな気持ちになってそう言っているのかは、よく分かっているのだ。それが子供というものだ。でも親としてのスタンスは、そこを自分から白状してはいけない。崩してはいけないと思う。少なくとも私なら「間違ってた。ごめん。」と即効謝れるより、威厳を守ろうとしている父の姿の方が正しいと思う。その時は子供に「カッコ悪い」と思われたとしても、もう少し大きくなった時、その姿勢の意味がわかるようになるんじゃないかと思う。子供っていうのは、その場に見えていないこと、その奥にあるものを、大人が思ってるよりも理解していることがあると思う。その場限りの正義とか正しさだけを見せることが、親から受ける教育ではないと思う。なんにしろ、大事なキャプテンアメリカを落として「黙れ!」と怒鳴られても、ゴスペルを聴きながら自分を抱きしめる父の事を、理解し、労わる気持ちはもう子供にはあるのだ。

ウィル・スミスの商売道具の医療器具が小道具としてとても効果的に使われている。ある時は苦難の元凶のような重たい荷物として、ある時は生きるための頼みの綱として、存在感が自在に変わるのが見事。

とりあえず『ベスト・キッド』の予習として観ましたが、ジェイデン・スミス君。大物オーラがすごい。将来もしかしてお父さんを越えちゃうんじゃないかってくらい、ゆったりとしてるのにちゃんと意識した演技もしてる。ああ『ベスト・キッド』が楽しみ。(10/8/18 DVD)

(評価:★4)

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