[コメント] カフカの「城」(1997/オーストリア=独)
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しかし、作品のつくりとしては、何やら「朗読と映像で楽しむ世界傑作文学選」といった趣。確かに具体的な解釈をモノともしないカフカ文学の映像化としては、ある意味賢明な選択肢かもしれないけど、それにしてももう少し視聴者の様々な解釈を喚起するような懐を持ったつくりにも出来なかったものだろうか。カフカ文学の土台をなすモチーフである(と、個人的には思う)「歪みきったパースペクティブと永遠の執行猶予」が、浮かび上がりきれていないというのか。
ハネケ色が薄いながらも、あえて特徴を挙げれば、あえて見せないこと(クラム、城など)と、章を断片として扱うぶっきらぼうな編集と、あえて位置関係を把握させない村内の描写など。しかし疑問に思うのは、カフカの世界はあくまで空間の捻じ曲がった「迷宮」であって、それを断片にすること自体に果たして意味はあるのだろうか、と。
しかし、原作を多少端折っているとはいえ、全体的には忠実な作り。唯一の大きな違いは、紳士荘のおかみの描写が著しく少ないこと(多くの人が原作を読んでいて一番厄介なのは、延々と続くこのおかみの屁理屈ではないだろうか)位か。でも、期待したのは忠実な『カフカの「城」』ではなく、多少傲慢になろうが『ハネケの「城」』が観たかったのです。
確かにカフカ文学を視覚化することは容易ではない。ので、いっそのことその難しさを割り切ってカウリスマキあたりが映像化した方が、意外に面白いものができたのではないだろうか、と思った。
(2007/3/4)
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