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[コメント] タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003/仏=オーストリア=独)

全てを呑みこむ闇の、抗いがたい存在感。そこに時折チラつく彼方の篝火。あたかも漆黒の獣が、不気味に目を光らせているかのようだ。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「狼の時」=深夜から夜明け前に「魔」が放たれ跳梁する時間。ということらしい。もう少し日本的な感覚でいうと、丑三つ時に三途の川を越えて餓鬼どもがワラワラと徘徊するようなもんなのだろうか(違うか)。

それはさて置き、少年の自己犠牲の試み、そしてトンネルを抜けた風景を映し出すラスト、ということで、内容はハネケによる黙示録と言っても良いかもしれない。狼の時間というのは、深夜(終末世界)〜夜明け(世界の再生)前ということなのだろう。

しかし、魔が跳梁するといってもここでの「魔」がどのようなものなのかが、いまいちピンとこない。ということで、あえて冒頭で変換してみたのだが、自分にはこの終末の光景は世界が地獄変と化す姿に見えた。一人、また一人と化けの皮を剥かれて餓鬼と化す姿に見えた(辛辣過ぎますかね)。

この物語の主軸は、一つの家族であり、危機の渦中で家族の絆がいかにして壊れていくかが描かれている。はじめは死にもの狂いで子供を捜す母親も、物語終盤においては、子供がどこへ行こうと反応もしなくなっている。そして最も辛辣に映ったのは、父親を殺した男との対面で、一瞬だけ母と娘が元に戻るシーン。ここで絆を再生させたのは、共通の「憎しみ」の感情なのだ。もう、どこまでも救いがないといえばいいのか・・・。

全体を通せばやや散漫な印象もあるが、ラストでささやかではあるけど希望の光(願い)が描かれていることが、ハネケの映画としては珍しいかもしれない。さらに、いつものフレーム外の暴力描写のバリエーションとしての、暗闇の中の暴力描写も特筆すべき点かもしれない。暗闇から聞こえる悲鳴や嘆願が、視覚が奪われているだけに余計に恐ろしく響く。

それにしても、これだけ(おそらく)世界レベルの危機にも、人間が自力で移動できる範囲の狭いこと。小さな範囲で右往左往しながら絶望していくなんて、人間というのはなんてちっぽけな存在なのだろう。ということを、視覚で実感できた気がする。

(2007/2/18)

(評価:★3)

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