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[コメント] 鬼軍曹ザック(1950/米)

製作期間は明らかに短いのですが、その分フラー監督の考えがダイレクトに現れていると思います。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 1950年6月25日に朝鮮戦争が始まったが、まだ戦闘が開始されたばかりのこの戦争を題材と驚くべき早さで投入された。流石にやっつけ仕事という印象は受けるが、なかなか面白い作品に仕上げられている。

 一見本作は反共産主義を前面に掲げた好戦的な作品に仕上がっているように見える。確かにザックはまるで楽しんでるかのように自らを戦いに投入し、敵には容赦がない。一方敵の方も非情に味方を殺しまくるという描写になっている。その中に、朝鮮人蔑視的な視線も感じられる。あたかも「俺たちが救いに来てやってるんだ」という視点は確かに感じられるのだ。

 ただ、本作の場合、多分にフラー監督の特徴を備えていて、それらの描写も一筋縄ではいかない。主人公のザックが決して正義の使者って訳じゃなく、ヒロイズムもなく、まるで冷徹な戦闘マシーンのような描写がなされているため、それが決して「正義」には見えないのだ。例えば彼がもっと人間的な暖かさがあって、ショート・ラウンドに助けられたことを感謝し、彼を最初から抱き上げるような存在であれば、確かにプロパガンダになるのだが、彼は最後までそう言う人間臭さとは無縁。これこそが戦場のリアリティだと言わんばかりに、眼前の敵を殺しまくる。後年の『最前線物語』(1980)にも見られる、戦場では非情に徹する事こそが正しい。としているかのよう。

 一方、その描写は、決して彼が行っているのが自分でも「正義のため」とは全く思っていない事にもつながっている。プロパガンダ的な見た目はどうあれ、現在やってる戦争は、実は単なる殺し合いに過ぎない。彼はその事をよく認識した上でただ戦い続ける。この設定は凄い。

 ただ、これが中途半端さとも取られがちで、このことが元でフラー監督はリベラリストには好戦的と見られ、一方の保守派からはコミュニスト呼ばわれもしたとのこと。なかなか複雑な作品だ。

 描写的には限られた寺院の描写がちょっと安っぽすぎる上、資料映像とのかみ合いがあまり良くないので、今ひとつ緊張感が足りない所。

(評価:★3)

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