[コメント] ハンバーガー・ヒル(1987/米)
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ドン・アプ・ビア“937高地”でアメリカ軍第101空挺師団と北ベトナム軍との間で繰り広げられた攻防戦「アパッチ・スノー作戦」を描いた作品(ちなみにこの戦いがアメリカ本国で報道されたことがきっかけで反戦運動が激化したという事実もあり)。
本作は『プラトーン』(1986)から始まったハリウッドのヴェトナム戦争ブームに乗って作られた作品の一本ではある。ただし、本作は、他のヴェトナム戦争とは一線を画した特徴がある。
まず一つが群像劇としたこと。全員無名役者を配したお陰で次に誰が死ぬのか分からず、緊張感が途切れない。
そしてドキュメンタリー・タッチとしたことで、余計に殺伐とした雰囲気を作り出すことが出来たこと。これも勿論緊張感を作り出すことにも一役買っているし、何よりも戦場をここまで乾いた表現で撮したというのが良い。
総じて言うならば、『プラトーン』を始めとするヴェトナム戦争の映画のほとんどが、物語性を重要視しているのに対し、本作の場合は、物語性よりも、戦争の残酷さというものをとことん描こうとしているのが特徴だろう。
ドキュメンタリー・タッチに徹し、兵士の視点に固定されているため、この作戦が何故必要なのか、あるいはこれによって戦局はどうなったかというマクロ的な視点がないため、物語の全体像は掴みにくく、決してバランスは良くないのだが、なんのために戦っているのか全く分からないが、殺し合いをさせられる兵士を描くことが狙いなんだろうから、それは充分。
そのため、戦闘の描写は極めて乾いており、バッタバッタと人が死んでいく。今この瞬間に隣にいた仲間の腕がちぎれ、血だるまになって、もはや人間とは言えない(まさしくミンチ)姿になっているとかいう描写が後半には次々に表れ、よくここまで描いたもんだと感心するほど。しかも丘を占領しても全く高揚感はなし。単なる焼け野原の中、呆然とした表情でそこに佇むばかり。戦争映画とは言っても、なんとも虚しい終わり方でもある。
先ほど、本作の狙いは戦争の残酷さというものを描くと書いたが、この残酷さというのは、単なる反戦では終わっていない。「世界に平和を」を合言葉にして始まったこの戦争が、その戦いの状況を知ることによって起こった反戦運動で、兵士たちがバッシングを受けることになっていく。
実はこの作品、アメリカの為政者だけではなく、それを安全な場所で批判していた一般市民の方も、その批判の対象にしているのかもしれない。
考え過ぎかもしれないけど、そのためにこの作品、あまり評価されてないのかもしれない。
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