[コメント] サウスバウンド(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
奥田英朗の同名小説の映画化作。映画にすると、70年代の極めてとんがった映画の主人公がそのまま抜け出て2000年代を舞台に暴れ回るという感じの作品。
この作品の面白さは、それをよく理解していて物語構成をしていると言う事だろう。主人公は敢えてこども目線から観させる事によって、その痛々しさと、「自由とは一体何か?」という事まで含めて描いて見せている。実際このような人達が大勢いた時代がある。そして彼らと共にいたはずの人達が、体制に呑まれて今の日本を動かしているという事をしっかり伝えようとしている。
近年稀に見る主義主張のはっきりした作品とは言える。
…ただし、である。
この作品に関しては、実は私は普通には楽しめなかった。
実は私の業界には、ここに出てくる一郎のような人が多く、そう言う人達とつきあうことに疲れていた時代にこの作品を観てしまったから。
そう言う人達はある意味とても正論を吐く。いや、理想主義を語る。そしてそう言う人達が集まると酒を飲みながら、怒鳴り合うようにこの日本にとって大切なのは何かを論じ、ほんの些細なことで、時には殴り合いまでやらかす。こういう人達と会議をすると、最早収拾つかず。平気で個人攻撃はするわ、過去をほじくり出して総括を求めるわ、挙げ句の果てに「司会進行が悪い」と議事進行の方に文句を言うわ、会議まとめてるこっちの身にもなってみろってんだ!
…と、まあ、そう言う世界にちょっと前まで身を置いていたこともあって、豊川悦司演じる上原一郎の姿は私にとっては結構身近だった。更に言うなら、最後に一郎がしたように、人里離れたところに本当に住んでしまった人というのを私の知り合いには二人ほどいたりする。
この作品観た時は、既にその世界からは離れて新しい任地に着いていたが、観てる内に心がざわざわして平静に観る事が出来ず。
これが小説だったら、多分のたうち回りながら楽しんで読めたと思うんだが、映画だと単に痛々しさだけしか感じられなかった。
でも、映画で心を抉られるという貴重な体験を味合わせてくれた、それだけでも充分か。
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