[コメント] 007 慰めの報酬(2008/英)
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007シリーズにおける特徴というのはなんだろう?これまでシリーズを重ねてきて、いくつも考えられるが、その中で極めて大きな要素だったのは、ボンドは常にポジティヴ思考の持ち主であった。という点が大きかったように思える。どんな危機に際しても、命ギリギリのがれ、その後ひょうきんな表情でボンドガールに笑って余裕しゃくしゃくぶりを見せる。徹底して人生を楽しむ前向きな姿勢こそがボンドの信条だった。それゆえにボンドは過去を振り返ることはなく、一作ごとに新しい恋に全力投球してる。これは一種のマッチョさと言えるかも知れない。こう言っては悪いかもしれないが、古いタイプの大人の男の理想像がそこにはあった。
ところが今回のクレイグ・ボンドは全く逆で、今回の話は『カジノ・ロワイヤル』の直後から開始され、前作で亡くなったヴェスパーのことを思い出しては悲嘆に暮れるし、一方では容赦なく人を殺す。さらにはトレードマークのマティーニの味さえも意識しないまま、楽しむのではなくただ酔うためにだけ酒をあおる。更に絶望的な状況で死を覚悟するシーンまである。ここから見えるのは余裕のなさで、極端に叙情的な部分と極端に非情な部分が混在している。叙情性も非情さもこれまでのボンドにはなかったキャラクタ性となっていて、本当に全く新しいボンドであることを印象づけてくれた。だが、少なくとも、これだけ性格を変えてながら、やっぱりこれがボンドだと思わせてくれるキャラクタ描写は確かにうまい。
おそらくこう言った二面性を持つキャラ描写は脚本に入っているハギスのお蔭だろう。この人の描く作品の登場人物はことごとく二面性を強調したものだから。だから本作はクレイグ・ボンドというよりも、ハギス・ボンドと言うべきかもしれない。これまでのボンド像を一旦解体し、新しいボンド像をしっかり作り上げてくれた。
他にもボンドカーが出ないとか、今回の敵ドミニクは単なるビジネスマンとしか感じられないとか、最後までボンドガールと結ばれないとか、明らかにMI6とCIAが対立構造にあるとか、いくつか気になるところもあるが、アクションや派手さ、世界中を飛び回るボンドの雄姿など、シリーズ中でも屈指の描写が映えるので、アクション映画としては充分楽しめた。楽しみ方としては、007と言うよりもジェイソン・ボーン・シリーズっぽい印象もあるけど。
ところで本作で少しずつ明らかになってきたが、どうやら国際テロ組織には黒幕が存在してそうだ。次回以降でその姿は明らかにされるのだろうか?
蛇足だけど、それ絡みで一つだけやって欲しかった。というシーンがあり。ラストシーン3秒で良い。猫(出来れば白いチンチラ)を抱いた、顔を見せない男を出してくれれば…これだけで原作及びシリーズファンは大喜びするだろうに。そのくらいのサービスが最後に欲しかった。
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