[コメント] プール(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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このスポット予告は随分前から映画館で流れていたが、わずか30秒程度の予告で、しかも内容はプールの傍らに加瀬亮やもたいまさこがぼーっとした感じで突っ立ってるだけ。という、妙に挑戦的な予告だった。ただ、それだけで「ああ、この作品は空気感を大事にした作品なんだろうな」という事が分かり、妙に観たくなっていった。
それで中身だが、期待していたのと見事に合致。そうそう、こう言うのが観たかったんだよ。不思議なリラックス感と心地よさ、そしてちょっとした居心地の悪さを全身に浴びてきた感じがする。
ところで本作は何もテーマを持っている訳じゃないと思うのだが、敢えて私なりに考えるなら、本作のテーマというのは“距離感”にあるのではないかと思える。
人間同士、それがどんな関係でも、距離感を保つと言うのがとても重要な事になる。人は他者に頼らねば生きていけないし、孤独にも耐えられないので、他者との距離を縮めたい。でも一方、他者に自分の心の内まで踏み込まれるのは嫌う。そう言うことで適当な距離感を自然と身につけていく。不快にならない程度の距離感を保つのがエチケットであり、自分が心地よく生きるための知恵だ。
本作は主人公のさよを中心に、少ない登場人物と、それぞれの距離感を模索している物語ともいえ、僅かな日数で、心が通ったり、感情を爆発させたりまでは行かないが、それなりに上手くやっていくコツのようなものを見つけていく過程が丁寧に描かれている。さよと京子の関係がその中では顕著で、お互いにどう接して良いか分からない状態から、単純に一緒にいることによって、なんとなくわだかまりが消えたような気になる。そんな過程が描かれていく。
ところで、この映画で面白いのは、距離感というのは、自分の思っているものと、他者から観たものが結構食い違っているという事だろうか。主人公さよは、心のどこかでまだ母親を許していない所があって、京子と合うたびに少し身を硬くして、ちょっとよそよそしい気分になる。そもそもタイに来た目的は京子と会うためなので、離れたくはないが、それでも近くにいすぎると気詰まりになってしまう。さよ本人は全然距離感を保てないと思っている。一方、そんな二人を観ている市尾は、まさしくその二人を称して「距離感が良いね」とか言ってる。距離感ってのは、自分で思っているのと、人から観ているところで随分食い違いが出てくるもんだな。
現実世界でも実際にありそうな物語ではあるのだが、そこに独特の存在感を持つもたいまさこが、不思議な役割を果たしている。彼女はほとんど何も言わず、ただ存在感だけの人物なのだが、これが不思議な緊張感をもたらしたり、ある意味神秘的な意味合いを持っていたりする。テレビドラマだとエキセントリックな役を演じることが多いのだが、黙っていた方が存在感が遥かにある。この人の存在がかなり画面を引き締める良い役割をしていたようだ。 好きなんだけど、なかなか無いタイプの作品なので、こう言った作品を映画館で観れるのは、とても嬉しい気分にさせてくれる。
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