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[コメント] 狼の紋章(1973/日)

作品自体はどうしようもないけど、監督の映画に対する真摯さだけはビンビンに伝わってくる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は日本映画史における一種の珍品で、松田優作のデビュー作としてのみ語られる傾向のある作品。噂ばかりは聞いていながらなかなか観ることは出来なかったが、先日ようやく拝見することが出来た。

 確かに珍品と言えば珍品。何事も中途半端だし、物語のつなぎも悪い。特撮に至っては最早失笑レベル。というか、あまりに酷すぎるため、本作を特撮と言ってしまって良いのか?と言う根本的な疑問さえ感じられる。

 さすがにこれを一本の映画として観るには痛々しすぎるのだが、それだけで終わらせて良いのか?と言う気もしている。

 実際本作をじっくり観てみると、様々な挑戦部分が感じられもする。カットバックの多用、光と闇の対比、誇張されたアングル、剥き出しの暴力描写、等々。これらは監督がこの作品に叩きつけようとした挑戦と受け取ることが出来よう。

 折しもこの年代はATG流行りの時代であり、そう言った映画の洗礼を受けた監督が真剣に「映画って何だろう?」と考え抜いて作ったのが本作ではなかったか?これは監督が考える映画そのものであり、そして既存の映画界に対する挑戦状でもあった。そう考えたら、本作の評価も少し変わってくるのではないだろうか?少なくとも「俺の考える映画!」と言う思いで作られた作品というのは、それだけで観る価値があるというものだ。

 ただ、惜しむらくは、それらの挑戦は全て松本監督の頭の中だけで形作られたものであり、実際の映画作りの技量に欠けていたと言う点。簡単に言えば経験不足。結果として、学生が作った自主製作の映画っぽくなってしまった。もう少し監督が経験積んだ上で作ってくれていれば…そこが惜しい。

 それでも流石松田優作の怪演ぶりはたいしたもの。到底高校生には見えない顔つきではあるが、その存在感はデビューにして突き抜けた感あり。原作にあった、どこか脆い所があるいじめっ子ではなく、主人公の存在すら食ってしまうほどのロボット的な超人ぶりを見せつけてくれていた。ここまでくるともはや化け物。

(評価:★2)

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