[コメント] カラフル(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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思いつくままに、ダラダラ書きます。
本作のラストシーン及び幾つかのシークエンスから察するに、作品全体を通して扱われるテーマは「人間はカラフルでよい」という多様性や個性を認める風の観念なわけだが、この至極真っ当なメッセージについて、登場人物たちの唐突な独白以外にそういったテーマを感じない。映画なんだから、ストーリーで、登場人物のアクションで、それを伝えてほしいものだ。むしろ、最後の最後で主人公が勝ち取る「生きてるだけでまるもうけ」な明石家さんま的境地こそが、本作のメッセージとしてより妥当ではなかろうか。
作品としては、『素晴らしき哉、人生』に代表されるフランク・キャプラ作品の人生賛歌をベースに、『密リターンズ』というかつて少年ジャンプで連載されていた漫画のような輪廻転生ストーリーが展開し、『オトナ帝国』でみせた原恵一監督のお家芸「涙腺刺激フラッシュバック」が炸裂するという。過去作品のサンプリングを、超美麗なアニメーションでこなした、という感じ?
『オトナ帝国』で特に感じた「我々の何気ない毎日もそのつもりで見つめればたくさんの輝きに溢れている」というメッセージを表層するのに、初めての友達と廃線跡地をめぐる小旅行やフライドチキンと肉まんを頬張るコンビニ前の据わり食いなど、エピソードの作り方は非常によい。また、同級生の援助交際やら母親の不倫やらのショッキングなフックを、大仰にすることなく、日常の生活にスルッと潜り込ませてくるあたり、はっきり言って子供に見せられるか心配になるくらいビターで気持ちがいい。本作の登場人物はみんな誰もが傷ついている。誰一人無傷ではない。父も母も兄も友も憧れのあの子にさえ、人知れぬ傷がある。でも金八先生はいっていたじゃないか。「ひとは〜悲しみが〜多い〜ほど〜人には〜優しく〜できるのだぁかぁらぁ〜」と。僕らは他人の痛みを知ったかぶりすることなく、判りあうことを諦めもせず、ただ、真摯に向き合うことで生きていくのだ。実に真っ当なメッセージである。
このように、非常に優れた作品であることは間違いないのだが、一方で気になる点も。
まず、超美麗な背景に対して、登場人物の表情が乏しすぎる。涙を流す、しかめっ面をつくる、といった極端なアクションでもないかぎり、その登場人物の内面を読み取ることはまず不可能に近い。また、麻生久美子や宮崎あおいなど、本職俳優陣は健闘しているが、主人公とプラプラくん?については、かなり台詞が棒読みで正直つらい。テーマが真摯で厳格であるからこそ、この二人の気の抜けた学芸会レベルの台詞回しが宙に浮いてしまう。
あと、冒頭の台詞のテロップ。あれ、他に表現の仕方ないわけ?声は聞こえないわ、姿が映らないわで、ああ、なんかこの少年が実は本人で…みたいな勘ぐりが始まり、話のオチがそのままだったので、カタルシスが弱まる。
等等。
まあ、何だかんだ言っても、やっぱり名匠のもとで真面目に作ればこういう作品が出来上がるのだ。製作の亀山さんにとっても、いい勉強になったのではないだろうか。
以上
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