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[コメント] 煙突の見える場所(1953/日)

和製『赤ちゃんに乾杯』…逆だ逆。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 戦後しばらくした庶民の生活を真っ正面から捉えた悲喜劇で監督の代表作。

 本作を観たのは本当にたまたま。リバイバル上映がかかっていた時に、目的持って観た本命の出来が今ひとつで、なんかそのまま帰るのも癪なので、もう一本観ていくか。と言う気持ちで鑑賞。

 いや、むしろこっちを本命にしても良かった。そう思えたくらいに本当に上手い作品だった。

 本作の舞台は徐々に復興が果たされ、特需目の前の時代の日本。だが一般市民は日本がどうなるかよりも、今日の食い物にありつくこと。そして慎ましやかで良いから一家を構えることを目標に、少ない金を貯めながら、代わり映えのしない日常を過ごしていた。

 …映画全体から受ける印象はそんな感じ。前提となる設定自体が相当重いし、なんか暗い雰囲気になるか?

 …と、思ったのだが、内容はかなり小気味のいい人情コメディだった。

 淡々と代わり映えのない毎日を送ることは、男でも女でも戦争を経験した人間にとってはある種の理想であり、それで基本は満足しているが、それでも胸の中には徐々に不満が溜まっていく。そんな時に不意に現れた闖入者が一気に人間関係を変えてしまう。これによって互いに本音をぶちまけ合って大喧嘩もやらかし、それで互いの事をより知るようになって仲が深まっていく。コメディの形式としては基本中の基本であると共に、戦後の日本でこんな小粋なものが作られたことも興味深いところ。

 こう言う不意の事態に直面した時、普段威張ってる夫の方はてんで無力。せいぜい嫌味を言うくらいが関の山で、それまで何も言わずに夫に従うだけだった妻の方がいきなり積極的に動き、赤ん坊を守る側に入る。結局これを観ていると、これこそが夫婦の姿なんだろうな。と思わせるところが本作の面白さだろう。確かにわたし自身が隆吉にシンパシーを覚えてしまったこともある。

 だから本作をコメディとして笑ってるってのは、引いて考えると自分自身の情けなさってやつを笑ってることにもなる。それが苦く、それでも楽しい。

 戦後復興期の東京の風景が全編に渡って描かれているのも良い。今の目で観ると「こんなに変わったのか」という所と、「ここは変わってないな」と思える場所があって、とても興味深く観ることができた。『機動警察パトレイバー』の下町の風景の原風景とはこう言うものだったのかも?とも思わせてくれる。

 しかし、上原謙は上手いな。二枚目スターの役を普通にこなしつつ、こんな情けない男までちゃんと演じられるのだから。

(評価:★4)

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