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[コメント] あなたは遠いところに(2008/韓国)

大予算映画でありながら、それをこれ見よがしに見せ付けるわけえではない。日本にこういう映画は作れるのか。女性と戦争。
SUM

ところどころ韓国流のくどめの演出は散見されるが、韓国大作映画にしては控えめに、淡々と登場人物を突き放して描いている。そこが何よりこの映画の良さだ。尺も長すぎず、編集がしっかりしている。ラストも余計なシーンを描かずエンドロールへと。

主人公のスエ。行き場を失った女性。時代も時代ベトナム戦争当時の韓国であるからして、行き場がないのである。嫁ぎ先の義母は、第二次大戦と、そして朝鮮戦争を体験しつつ、教育はそれほど受けていない世代。スエも戦争経験はないが教育はそれほどでもない、結婚を周囲にさせられた女性。しかし、しんのある女性だ。だから、旅立つ。

詐欺屋なミュージシャンと一緒に行動する。そのうち彼女に情の移ってしまうチョン・ジニョンの描写にご都合主義がないわけではないけれど、でも、映画全体のバランスでなんとか踏みとどまっている。

何故、ただの女性が、つれなくしている夫に会わんがために、徐々に戦場に近づいていくのか。砲弾飛び交う中に飛び込んで行くのか。そして、人々はそんな無謀な民間人に協力してしまうのか。ご都合主義といえばご都合主義だが、スエのキャラクターと役者としての実力がそれを許してしまう。

ベトナム戦争を韓国の立場から描くという点も不十分という指摘はあるかもしれない。だが、その割には公平なほうではないかなと。映画という嘘の範囲としては。

歌が好きな女の子だったスエが・・・失敗を重ねながら目標を達するために恥じも外聞も捨てて歌う。踊る。イ・ジュニク音楽映画三部作完結。 色々な歌が出てくる。当時も聞かれた米韓それぞれのヒット曲。そして、映画のタイトルの曲になる「あなたは遠いところに」。戦後韓国の名曲。時代、曲、泣ける。

アメリカの『プライベート・ライアン』から遅れること10年。日本でこそそれほど工業的に振るわないが、韓国で結果を着実に残すエンターテイナーにて作家、プロデューサ、職人。イ・ジュニクを韓国のスピルバーグと呼んで私はかまわないと思う。

韓国映画といえば、昔は男が女を殴るのが常だった。『猟奇的な彼女』は別の潮流を見せていたが。この映画のクライマックスのスエのビンタは韓国では、とても重い。

歴史に翻弄される等身大の男女。この映画は大スクリーンで見る価値があるのだが。

(評価:★5)

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