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[コメント] 或る殺人(1959/米)

観ていて歯がゆくさせられる。それでもぐいぐい観させるのが法廷ものの醍醐味。見事な作品でした。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 日本とは異なり陪審員制度が発達しているアメリカでは法廷ものはれっきとした一つのジャンル。その中で数多くの傑作が生まれているが、本作はその中でも初期の傑作と言える。

 そもそも原作自体が判事によって書かれているので、細かいところまでしっかりと描かれている。弁護士が弁護を引き受けるまで、裁判の煩雑さや、陪審員に対する心理的駆け引き、いかにして不利な証拠から人々の目をそらすか。過去の判例を紐解いて有利な証拠を探し出す努力。それらが丁寧に描かれているのだが、何より当の弁護士自身がこの事件の全容を知ることが出来ないと言うのが最大の特徴。観ている側にとって、この曖昧さが緊張感の演出につながっており、最後まで答えは明かされない作りは大変面白い。

 実際、本作の依頼人であるレミック演じるローラが、本気で弁護してもらう気があるの?と言うくらいにエキセントリックで、裁判そのものを妨害してるようにしか思えず、それに振り回されていくうちに、観てるこちらまで混乱してくる。だんだん苛ついてきて「もうどうなっても良いや」と思ってしまうのだが、以来を受けた弁護士はそうも言ってられず、泣く泣く証拠集めに奔走することになる。甲斐甲斐しい努力がなんともすばらしいところだ。しかもその努力の結果が…ラストのどんでん返しでは脱力すること受けあい。地味ではあってもかなりメリハリはついてる作品と言えるだろう。

 本作は当時としては大胆にセックスに関する要素を盛り込んだ作品として話題となったが、現代としては他愛なく思えることでも(描写は全くないし)、悪名高き当時のハリウッド・コードはセックスについての話題はご法度。本作ではそれに抵触する台詞が連発され、レイプについてはっきりと明言までしている。『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1966)がハリウッド・コードに穴を開けた事はよく知られるが、それ以前にこれだけのものを作って公開できたという事実が凄い。

(評価:★4)

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