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[コメント] 続・菩提樹(1958/独)

外部から観た“自由な国アメリカ”の実体。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 『菩提樹』続編で、実質的に『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)の「その後のトラップ一家はどうなったか?」が話の内容。彼らがアメリカに渡った後、彼らがどんな風に生活していったか。ということが主眼となっているわけだが、作品自体は一作目ほど面白いとは思えない。

 これは一作目が第二次世界大戦を前にした脱出劇という劇的な構成をもっていて、政治的、思想的な緊張感があったのに対し、本作が音楽一家の成功物語といったよくある構成になってしまったため、やはり目新しさとかが今一つ低くなってしまったためだろう。

 ただ、本作に見るべきところがないとは言わない。その一番の理由は、本作の制作と公開は西ドイツのものという点。これはアメリカという国を、外からの目で見た作品であると言うことにある。

 この映画が制作されたのは1959年ということは、戦争終結後15年といったところで、その当時の記憶がまだ生々しい時代。そこで当時のアメリカの国情というのがどうだったかが見えてくる。

 一つには、トラップ一家がアメリカで受け入れられた理由は、彼らがオーストリアからファシズムを嫌って逃げてきたという事実があってこそ。しかも家族で協力して生きていくという姿勢が国民感情を揺さぶったのだろうと思われる。彼らが活動していた時期はまさしく第二次大戦まっただ中。憎きナチスに対するプロパガンダとして彼らが使われていたということが画面からも滲んでいる。

 そして音楽のこともある。一応アメリカはピューリタンが作った国ということで、賛美歌なり聖歌なりが音楽的にはメジャーだったはずだが、当然流行り廃りというものがあって、1930年代に至って戦争の機運高まる時代には、静寂さや敬虔さよりも、心を高揚させる歌の方に心が向くだろうし、その意味では国際的な戦争を前に宗教性から脱却しようとしている国民性というのも垣間見ることが出来る。

 本作は当然前作と合わせて観ることでその真価を発揮する作品なのだが、単独でも異邦人から観たアメリカという国の様子を考察することが出来る。ちょっと邪道かもしれないけど、映画にはこんな見方も出来るものだ。

(評価:★3)

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