[コメント] ハンガー・ゲーム(2012/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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地域代表の男女が地域のために命がけで戦うという設定は単純ながら面白いと思うのだ。しかし、その設定が活かされているか?と尋ねられれば否だ。
元々からして本作は日本で作られた深作欣次監督の『バトル・ロワイアル』(2000)にインスパイアされて作られた作品のように思われるのだが、その割には底が浅い。
ほぼ物語が一本調子で、最初から終わり方が見えてる。たとえば『バトル・ロワイアル』では、なんの予備知識も覚悟もないまま突然サバイバルをやらされる中学生が主体。そこから人を殺す覚悟を短期間で作り上げて、手持ちの様々な武器(中には全く武器として役立たないものもある)を使ってサバイバルをする。一人では立ち向かえないので、誰と仲間になるか、仲間をどこまで信用するかという駆け引きもあって、実に緊張ある物語になっていた。それに対し、この作品は主人公が最初から決まっていて、彼女が優勝するのは目に見えているし、基本的に全員が覚悟を持った状態で始まる。殺し合いに駆け引きもあるのだが、その駆け引きに強く恋愛要素を取り入れてしまったために戦いの興が削がれる。サバイバルのようでいて、常にカメラで見張られている箱庭のような場所。どれもこれも『バトル・ロワイヤル』と較べるとグレードダウンしている。
更に問題と思われるのは、主人公がやってることは全部お膳立てされ、それに従うように強制されてるって点だろう。ここに描かれる恋話も全部お膳立てされた上でやらされてるに過ぎないし、ゲームの結果すら既にお膳立てされてる。何のことはない。主人公の存在意義は誰かのゲームの駒になってるだけの話でしかない。
設定面でのアラも多い。一つだけ書くと、ハンガーゲームは誰もやりたがらないって初期設定自体が無理。こんなゲーム、誰だって子どもの頃は夢見るし、それで勝ち残る自分を夢想する。それが現実にあるならば、立候補する人間は山ほど出るだろうに。そこにリアリティが感じられず、最初から躓いた。
しかしこの程度の物語でアメリカではなんでこれだけ受けるのだろうか?そう考えてみると、一つ思いつくものがある。
他でもない。テレビの視聴者参加番組である。
日本では視聴者からのクレームや、参加者に怪我をさせてしまうと裁判沙汰になるためにすっかり廃れてしまった視聴者参加のサバイバルゲームだが、アメリカでは今も多くの番組が作られている。それがいきすぎた形で出たらどうなるか?一種のシミュレーションとして考えるならば、これはありだろうし、これを「皮肉」として受け取る限りにおいては、この程度の作品でも興味は持てる。
かつて押井守は『機動警察パトレイバー2 THE MOVIE』(1993)で、テレビのこちら側の人間は「なにもしない神様」と看破したが、まさしくこれは「なにもしない神様」である、視聴者自身を小馬鹿にして、その馬鹿にされていることを受け入れられる心の広い人間には楽しめるものなのかもしれない。
そう言う意味ではアメリカは度量が広いんだろう。そう思うことにしよう。
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