コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ホビット 思いがけない冒険(2012/米=ニュージーランド)

ぎっちり詰まった『ロード・オブ・ザ・リング』と較べたら、演出は上がっても、物語は薄くなってしまったかな?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 トールキンのファンタジー作品は私も大好きなので、これがいつくるかいつくるかと心待ちにはしていたものだ。待ちに待った作品であるだけに期待も大きかったが、とりあえずは本作は及第点と言ったところか。

 そもそも『ロード・オブ・ザ・リング』は原作があまりに長すぎ、それを三部作にまとめるのは相当な苦労だったろうが、その前史である「ホビット」はより児童向けに、そして短い作品だった(大体「指輪物語」の1/5程度かと思われる)。それを『ロード・オブ・ザ・リング』と同じ三部作にするということで、おそらくは内容は薄いものになるだろうと思われたが、思ったよりは内容は詰まった感じになっていた。これは『ロード・オブ・ザ・リング』から少し間が空いたことで、そのノスタルジーを詰められたことが大きいだろう。前作のキャラが大挙して、しかも若い姿で登場するのは、それだけで大変ノスタルジーを刺激されるため、ついつい頬が緩むし、その登場も適切な場所で行われるので、高揚感が半端ない。CGの使い方もこなれており、再び“中つ国”に放り込まれた感じがあって、これも大変楽しい。

 なにより『ロード・オブ・ザ・リング』では断片的にしか描かれてなかった異種族の描写にちゃんと時間をとっているところは気に入った。『ロード・オブ・ザ・リング』でもオークやゴブリン、ドワーフなどの種族は多々登場していたものの、物語の圧倒的質量に飲み込まれ、それらをこと細かに描写はできていなかった。そもそもこれらファンタジーには必須の彼ら異種族は、数多くの民話をベースにトールキン自身が創作したものなのだから、その生活や習性と言ったものをたっぷり時間をとって描写してくれたら、という願いもあり、それがちゃんとなされていることが嬉しい。

 そういうわけで点数も甘くなりがちだが、多少の苦言。

 まず本作の問題として、『ロード・オブ・ザ・リング』一作目と同じ構成になってしまったことがある。そこでも書いたのだが、エンカウントと、ほっとする部分が交互にやってくるだけで、物語の進展があまり感じられなかった。アクション作品としては優れているかもしれないが、どうにも観ていて心が疲れる。ここまで派手にしなくてするっと流しても良いところもたくさんあるのに、それを敢えて長々と描写するので、そこが間延びしてしまった感があり。

 そして原作では後半にあった指輪のシークエンスをずいぶん前に持ってきたのは良いけど、原作ではさほど重きが置かれてなかった部分が随分と拡大されてしまったこと。これは『ロード・オブ・ザ・リング』がそもそもその指輪を巡っての冒険だったこともあって、それを先に観ている以上仕方ないところもあるのだろうが、構成的にはここをもう少し原作に敬意を表してさらっと流してほしかったところではある(そう考えること自体がおかしいのかもしれないけど)。

 結果、物語が単調になってしまった感は否めず。2時間でまとめることができてたら、かなりテンポも良くなってただろうとは思うのだが。

 とはいえ、作品自体には概ね満足だし、これから物語も深まっていくことだろうから、そちらの方に期待することにしようか。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。