[コメント] 砂漠でサーモン・フィッシング(2011/英)
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そのフィルモグラフィの最初から様々なジャンルの作品を作っている才人ハルストレムが作り上げたのは、今度はかなりストレートなラブコメ作品。大体タイトルにもあるとおり、設定自体が砂漠地帯に鮭を放流しようという、かなり荒唐無稽な話で、タイトル観る限りは、どう見てもコメディ作品としか思えない。
内容としても、実際にそんな荒唐無稽な夢を持ったイエメンの王様に引っ張られ、更にイギリスの外交政策の都合に振り回されてあたふたしている内に、その中心となった男女がお互いに惹かれ合っていくという、ある意味ラブコメの王道ものとなっている。 ただ、ストレートはストレートでも、いろいろな要素がバランス良く詰め込まれているのが本作の特徴となっているだろう。
一つには政治が背景にあること。かつてアメリカが始めたアフガニスタン戦争では、真っ先にその協力をしたという経緯がイギリスにはある。本作の舞台はそれを背景としており、中東との政治的な駆け引きが存在するし、ハリエットの恋人も、継続しているその戦争のために生死不明になってしまっている。
そしてこの部分をコメディ部分にしているのが本作の特徴。イギリス政府はこれを政治的なデモンストレーションであったり、刻々と変化する国内外情勢に振り回されて指示が一定しない。その部分をコミカルに描き、そしてそれに振り回されることになる主人公たちの姿の部分はきっちりコメディとして仕上げている。実際ラブコメと言っても、コメディ的な要素は政治、殊にイギリスの政治だけに留めているのが面白い。
それを下敷きにしているが、恋愛要素は至って真面目。結婚生活に疲れ、何事もいい加減にしてきた主人公が、やっと見つけた本当にやりたいこと。そのパートナーとなった??は、「鬱陶しい」から「頼りになるパートナー」に、そして「恋愛対象」へと変化していく。そこを丁寧に描き、更にそこに三角関係の要素も取り入れていく。
この部分は好みとは言えないまでも、かつて『サイダーハウス・ルール』できっちり描いたところがここにも活かされていて、巧さを感じられるところ。
そして何より、私が本作で一番重要だと思ってる部分だが、本作では「信心とは?」という部分に切り込んで語っていること。
具体的には王子が主人公の釣りの魚が釣れるまで何時間でも釣り糸を垂らす態度を指摘し、その信じる心こそが信心であり、「誰にでも信心はある」と断言しているという部分。
誰にでも信心はある。これは当たり前のことかも知れないが、誰だって「何かを得るために苦労する」ことを厭わない部分がある。それは達成を信じるからであり、それを信じる心の事を「信心」と言い表している訳だ。ある意味、自分を賭ける趣味があるという事は、そのままそれが宗教性を持つと言うことになる。
そして王子によれば、彼がイエメンを近代国家にしようとしていることも信心によるものであり、彼がやろうとしている砂漠でサーモン・フィッシングをしようとしていることも、ある種の宗教性を持つ。イスラムであれ、キリスト教であれ、無信教であれ、真に人のために何かをなそうとするならば、それは神聖なものであるとしている。
単純かつ非常に説得力に溢れる言行であり、それがあるからこそ主人公も動かされていく。
そしてその希望があるからこそ、どんな失敗をしても、又立ち上がれる。信心とは心の折れないこと。そのテーマが実に素晴らしい。
なるほどハルストレムがラブコメなんかに手を出したのは、ここにしっかりしたテーマがあったかと思われるところ。
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