[コメント] 東京家族(2012/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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かつて小津安二郎監督によって制作され、『七人の侍』(1954)と並び、世界的にもっとも有名な映画の一本『東京物語』。それを、今や日本を代表する映画監督の山田洋次監督によってリメイクされた。
もちろんこれだけで充分“観なければならない映画”である。そして折角だからこれは劇場で観なければ。そんな思いで劇場へと足を運んだ。
それで、折角だから『東京物語』と本作の違いを中心にレビューしていきたい。
まず背景だが、これは言うまでもないことだが、『東京物語』は“戦後”を大きなキーワードとして持っている。あの作品では三人の子供の末っ子は戦死しており、婚約者を失い、自らを未亡人として位置づけている婚約者との交流が重要になっている。
それに対して本作は“戦後”に対するキーワードとして“東日本大震災”を持ってきた。確かにこれは戦後に対抗できるほどの大きさとは言えないかもしれないが、それでも日本全体に大きな負の衝撃を与えたものとして充分だろう。実際劇中でも地震によって亡くなった人のことが言及されているし、末っ子はボランティアで東北に行っていたとなっている。
あれくらいに衝撃的な事件なしには本作は成立できないのだから、不謹慎ながら、あの地震でやっと本作が成立できたとも考えられる。本作が単なる『東京物語』のコピーに終わることがなかったのは、このお陰だ。
次に家族構成となると、これは上二人の子に関してはほぼ完全にオリジナルを踏襲している。二人とも決して両親を嫌っているわけではないものの、自分の生活が忙しく、両親が東京に来ることで、幾ばくかの拘束感を持っていて、両親を少し自分たちから離しておきたいという感情を持っている。これに関しては時代を経ても変わってないと思わされることだらけだ。オリジナル版では、敗戦のショックを乗り越え、これから立ち上がっていこうという気概を肯定も否定もせずに描いていったが、ここではどうだろう?もう日本は良くなることはないという前提条件あっても、やはり同じことをしてしまっていると考えれば、大変皮肉なものと思えてしまう。戦後から既に70年近く。それでも日本の教育関係や仕事関係は同じことをしてるのか…日本はなにも変わってないのでは?なんてことも考えてしまう。
それでオリジナルと本作の大きな違いは、末っ子の存在となる。オリジナルの方では戦死しているが、本作ではちゃんと存在している。この違いが本作を特徴づけている。たぶんここに山田監督の思いが詰まっているのではないだろうか。
彼はこども時代、特に父親からは期待されておらず、本人もその事を知っていた。そして自分のやりたいことを見つけるために定職にもつかずに、半分アルバイトのようなことをずっと続けている存在として描かれている。
多分監督が描こうとしていたのは、ここなのだろう。全くのリメイクではなく、“今”の姿として。彼は震災のボランティアに行く程度には社会に意識はあるが、自分自身の道を見つける途上であり、そんな彼がようやく父に認められるまで、そしてその彼女である紀子と結ばれるまでを描く。このオリジナル部で、ようやく本作が小津監督作品ではなく、山田洋次監督作品になったのだから。
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