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[コメント] 特攻大作戦(1967/米)

作る方もプロなら演じる方もプロ。見事な群像劇です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 アルドリッチ監督が最も得意とする群像劇を本当に上手く仕上げた作品。これは後の『ロンゲスト・ヤード』(1974)にもつながるのだが、前半部分の実力はあっても自分勝手で協調性のかけらもない個性的な人物達を集めて、それをまとめ上げる過程にこそ、本作の面白さがある。特に囚人たちは、それぞれ個性派俳優として10年後にはハリウッドを背負うキャラばかり。これだけの人物を集めてきたと言うだけで、今から観たらほとんどオールスター映画に見えてしまう。大体囚人の面々で言っても、チャールズ=ブロンソン、ジョン=カサヴェテス、テリー=サヴァラス、ドナルド=サザーランドだよ。更にそれを率いるのがリー=マーヴィンとあっては、男の臭いでむせそうな濃い奴らばかり。個性派も極まれりだが、そんなキャラを上手く配置し、仲間意識を持たせていく過程をアルドリッチ監督は見事に仕上げてくれた。

 それと、この作品で面白いのは、友情を絶対前面に押し出さないという点もある。戦場におけるパートナーの友情というのは描きやすい反面、お為ごかしになりやすいし、何よりプロの仕事を描く以上、それを出してしまっては非情さをスポイルしてしまいがち。勿論アイコンタクトなど、そう言う描写もあるはあるけど、あくまでそれはプロとして自分の与えられた仕事をこなしている人間同士の信頼感という感じに仕上げられている。戦争を叙情的に描いてたまるか!という監督の主張が見え隠れしているような感じで大変心地良い。いや、濃いキャラばかりだから、そう言う話に持って行けないというのが実情なのかもしれないけどね。特に前半は二人以上絡んだシーンが少ないため、個々のキャラクタ性を前面に押し出しつつ、それぞれに見せ場を用意できていた。演出の巧さとも言えるだろう。更に前半部分には結構笑いの要素も多く入れられていて、ここでの凝縮度合いは凄いもの。

 そして後半にはいると、物語は一転。本物のプロの戦いが描かれていく。これまで苦しい訓練を生き抜いてきた仲間も、容赦なく見捨てることが前提にあり、本当にそれで見捨てられてしまう人間もいる。これを描くためには友情というのは描けなかったわけだ。

 後半の攻防戦になると、かなり凄まじい描写もありで、特に密室に避難したドイツ人(女性も多数)に爆弾を放り込むシーンなんかは、「よくここまでやってくれたな」と思わされる…今から見ても、ちょっとやり過ぎって気もするけどね。それも含めてやはり本作は一級品である。

 それにしてもよくこの時代にこんな作品を作れたものだ。前年『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1966)によってハリウッド・コードに風穴が開けられ、レーティングシステムが考えられ始めたとはいえ、ここまで残酷で非情なシーンを入れるのは、それまでのハリウッドでは考えつかなかった。時代性を考えたら、お蔵入りしても不思議はないのだが、丁度この年、ニューシネマが始まったのも追い風だったのだろう。ある意味では、ようやく時代の要求に合った作品が作れる時代が始まったことを感じさせた作品だった。

(評価:★5)

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