[コメント] ゼロ・グラビティ(2013/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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かつて『トゥモロー・ワールド』で、SF映画ファンの心をがっちり掴んだキュアロン監督が、再び世に送り出したSF作品。今度の舞台は宇宙で、本当にモロにSF映画って感じ。
そして再び監督は見事な手法で素晴らしい映画を作ってくれた。素直に拍手を贈りたい。
本作の本当の素晴らしさを語る前に、本作を特徴付けるユニークな点を考えてみよう。
一つ目として、無重力描写の良さが挙げられるだろう。本作はそのほとんどのシーンが無重力状態であり、重力を感じさせない描写が重要なのだが、それは単にふわふわ浮いてるだけでは駄目。重力がない分、慣性の法則に則った描写が必要になる。具体的には、何らかのエネルギーを受けて移動するなら、その方向に移動し続けることになる。移動を止めるためには他のエネルギーを使ってそのエネルギーを相殺する必要がある。宇宙での移動で、描写のみでそれをやってみせてくれた。
そしてこれはキュアロン監督が得意とする長回しと相性がとても良い。黙って移動するだけのシーンでも、これだけ長いフレームで流されると、見応えがあるし、緊張感も持続する。
撮影のこと考えたら、クレーン移動させるカメラの位置とか角度とか、ブルーバックで吊り下げての撮影だろうから、役者の動きのリハーサルとか、物凄い手間がかかる。このシーン撮るだけでどれだけ時間かけたんだろう?とも思ってしまう。
でも、その手間があるからこそ、これだけの描写力見せつけることが出来たのだ。
二つ目。人数を極端に絞ったこと。一応最初のシーンでは数人登場するものの、あっという間にふたりに。そしてわずかな時間で今度はたった独りになってしまう。特殊なシチュエーションとは言え、これで一本映画作ってしまったのが凄い。自然物語は複雑に出来なくなるが、ひたすら生き残るという単純明快さに集中出来るようになった。次々にやってくる危機を前に、その都度その都度で考えていくというまさしくサバイバル。だから物語が単純でも全く緊張感は途切れることがない。
三つ目。説明を最小限に留めたこと。ほとんどの人に宇宙は未体験シーンとなる。前述した慣性の法則や重力など、言葉で説明すれば楽に伝えられることなんだが、敢えてその方法を使わず、描写のみで説得力を持たせてくれた。
四つ目。多分『アバター』(2009)以来ようやくまともな3D映画が出来たということ。単に奥行きを見せるだけじゃない。主人公の目線で、一緒に危機を体験していくことになる。ここも前述した長回しが上手く生かされる。
これらによって観客はいきなり未体験ゾーンに放り込まれ、さらに次々とやってくる危機を体験することになる。ジェットコースターに乗せられてる気分になるのだが、それこそが本作の最もユニークな部分。本作はバーチャルな体験映画に仕上がっているということに他ならない。体が動く訳ではないけど、視覚だけでも十分自身の体験として受け止めることができる。
そしてその体験あってこそのあのラストシーンにつながっていく。彼女が地上に降り立った際、これまでと違い、ぐっと筋肉をたわめて起き上がるのだか、その時の体がとても重そうになる。そのシーンを観た瞬間、観てる側も体が重く感じてしまう。これまで一緒に無重力の世界を体験してきたからこそ、そんな錯覚を覚えるのだ。このラストシーンの重力を感じる瞬間こそが監督の狙いだったとおもわれる。
これこそが本作を傑作たらしめている部分である。普段全く意識することのない、“重力”というものを体感する。こんな事を感じることが出来た作品なんて、他にはない。こんな素晴らしい“体験”をさせてくれる作品作ってくれたことを素直に喜びたい。
最後に一つ、ちょっとモヤモヤするところ。本作の邦題は『ゼロ・グラビティ』だが、原題は『Gravity』となっている。最後のシーンみた後だと、こっちの方が本作にはふさわしい題という気がする。だけど、単に『グラビティ』とか『重力』では、邦題にはならんだろうな。この題で良かったのか?
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